スナフキンとちびのミイは姉弟!? 母親の名前は?

ちびのミイスナフキン、実はきょうだいだってご存じでしたか? 正確には、ふたりは異父姉弟だとされています。映画『かもめ食堂』にも片桐はいりさん演じるミドリが披露するムーミン豆知識として登場していましたから、知ってるよ!という方も多いかもしれません。一見、単なる遊び友だちのような関係に見えるふたり、きょうだいらしいやりとりは原作にもほとんど出てこないので、ちょっと意外ですよね。しかも、身長も言動もお兄さんっぽいスナフキンではなく、ちびのミイのほうが年上のお姉さんだというのですからますますびっくりです。さて、ここでクイズ、スナフキンとちびのミイのお母さんは誰でしょう? これも、知ってるよ!!という声が聞こえてきそうなので、今回は先に答えを発表してしまいます。ふたりの母親はミムラです。ちょっとややこしいのは、ミムラというのは種族の名前。小説『ムーミンパパの思い出』の日本語訳では、母ミムラがミムラ夫人、長女のミムラねえさんがミムラのむすめと呼ばれてきました。でも、ミムラ夫人ってちょっと変だと思いません? なぜなら、夫人というのは“他人の妻”を表す敬称ですが、ミムラには夫がいるのかいないのか、どこにも登場しないからです。発売されたばかりの新版『ムーミンパパの思い出』では、原語のスウェーデン語に基づいて改訂した結果、ミムラ夫人という呼び名はなくなり、ミムラで統一されました。しかし、さらにややこしいのは、コミックスミムラと呼ばれているのはミムラの長女(ミムラねえさん)で、母親はミムラのママと訳されています。ミムラファミリーが登場するコミックス「家をたてよう」については、以前のブログでも詳しくご紹介しました。新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』第1話「リトルミイがやってきた」やムーミンバレーパークのアトラクション「リトルミイのプレイスポット」のベースにもなっているので、ミイとお母さん(ミムラ)と大勢のミムラっ子たちについては知ってるよ!!!という方もいらっしゃることでしょう。

では、スナフキンはいったい、いつ、どんなふうに生まれたのでしょうか? そして、スナフキンの父親の名前は? その謎を解明してくれるのが小説『ムーミンパパの思い出』です。基本的なストーリーは以前のブログでもご紹介をしましたが、若き日のムーミンパパは発明家のフレドリクソンの作った船で冒険の旅に出ます。そのとき船に同乗していたのが、スナフキンの父、ヨクサル。王さまの島で、大きな腕に子どもをどっさり抱いた、まんまるくて豪快なミムラと出会ったヨクサルは「たいしたミムラだねえ」とすっかり感心。その夜、 みんなが帰った後もヨクサルだけは残って、朝日がのぼるまでミムラと回転ブランコに乗っているつもだと言いました。そして、それからいつもいっしょに駆け回ったり、声を合わせた笑ったりしていたのだそうです。
実は、ちびのミイが生まれたのは、その後のこと。ムーミンパパは「思い出の記」のなかで、夏至の頃、ミムラの末むすめが生まれてミイと名づけられた、と綴っています。スナフキンが生まれたときのことは明記されていないので、時期としてはミイの誕生より後のようです。ただ、そうなると、ミイのお父さんもヨクサルの可能性があるのかもしれないのですが、ミムラがどんな仕組みでそんなにたくさんの子どもを産んでいるのかは謎に包まれているので、なんとも言えません。
ムーミンパパがその話を語って聞かせたときのスナフキンのリアクションを引用してみましょう。

すると、スナフキンが聞きました。
「ママっていえば、あのミムラってどんな人だったの。ぼくにもママだったんでしょ」
ムーミンパパはいいました。
「そうさ。おまけに、とってもいい人だったよ」
「そうすると、ちびのミイはぼくの親類になるのか」
と、スナフキンはおどろきの声をあげました。
(『ムーミンパパの思い出』講談社刊/小野寺百合子訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)

スナフキンはミイのことをきょうだいやお姉さんではなく、親類と言っています。その後、物語のエピローグには、ムーミンパパの旧友たちが揃ってムーミンやしきを訪ねてくる場面があります。

ヨクサルはミムラとミムラのむすめ(ミムラねえさん)、そして、ちびのミイと三十四人のミムラっ子たちといっしょでした。となると、ミイとスナフキン以降に生まれた子どもたちのお父さんはいったい誰!?    でも、あまり細かいことを詮索するのはやめておいたほうがよさそうです。なぜなら、この物語の書き手であるムーミンパパは序章で「この自叙伝では、少しは大げさにいったり、ごちゃまぜになったりするところもあることでしょう」と語っています。そして、この挿絵をよく見てください。なんと、ミムラやミイにしっぽが! やっぱりムーミンのお話は設定にこだわりすぎず、おおらかな気持ちで楽しむのが正解ではないでしょうか。

萩原まみ