ムーミンたちが冬眠前に食べるものは?

2019年最後のムーミンクイズは、ムーミンたちの意外なしきたりからの出題です。ムーミンたちは寒さを避けるため、長い冬の間、冬眠して過ごします。冬眠前にはいつも決められたものを食べるのですが、それは何でしょうか?

ムーミンたちが冬眠するエピソードといえば、筆頭に挙げられるのは小説『ムーミン谷の冬』ムーミントロールが冬眠から目覚めてしまう物語の冒頭、みんなが眠っている様子が描写されます。少し引用してみましょう。

家の中はあたたかくて、とても気持ちよさそうでした。地下室のストーブの中で、泥炭の山がしずかにいぶっていたのです。(略)その広間には、大きなせともののストーブをかこんで、ムーミン一家のものたちが、長い冬のねむりにはいっていました。
いつでもみんなは、十一月から四月まで、冬眠するのです。なにしろ、そうするのが先祖からのならわしで、ムーミンたちは、とてもしきたりをおもんじたからです。みんなは、おなかの中に、彼らの先祖がそうしてきたように、どっさりと松葉をつめこんでいました。
(『ムーミン谷の冬』講談社刊/山室静訳より引用)

はい、正解のひとつは「松葉」です! 眠れなくなったムーミントロールが家の中を歩きまわる場面には「広間のテーブルの上には、松葉をいれたスープいれが、十一月にたべたときのまんま、まだのっかっています」という記述も。

では、なぜ「松葉」が正解だと言い切れないかというと、もう一作、冬眠の場面から始まる『たのしいムーミン一家』を引用してみましょう。

ムーミンママはお客のために、ベランダに食事をならべましたが、出すものは、もみの葉しかありませんでした。冬中ゆっくりと眠ろうと思ったら、おなかにどっさりもみの葉をつめこんでおくことが、大切なんです。
あんまりおいしくなかったでしょうが、夜ごはんがおわると、みんなはいつもより少していねいに「では、おやすみなさい」といいあいました。

(『たのしいムーミン一家』講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)

と、ここでは「もみの葉」になっています。トーベ・ヤンソンはムーミンの物語を自由に紡ぎ、作品によって食い違いもあるのですが、これはトーベが「松葉」「もみの葉」と書き分けたわけではありません。実は、「松葉」「もみの葉」はどちらも不正解とも言えるのです。『ムーミン谷の仲間たち』には「もみの木」という短編が収録されていますが、これは正確には「もみ」ではなく、「トウヒ」映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』では“冬も枯れない木はトウヒだけ”というフレーズがナレーションに登場します。つまり、原語では「トウヒ」なのですが、日本ではクリスマスツリーといえば「もみの木」というイメージがあるため、『ムーミン童話の百科事典』によれば、慣用的に「もみ」と訳されたようです。同様に、針葉樹の葉っぱの総称として「松葉」「松の葉」という言葉を使うこともありますね。『ムーミン谷の十一月』には次のようなくだりもあります。

「ふたつきのはちの中には、なにを入れてあるのかな」
「もみの葉っぱだわ」と、ミムラねえさんは答えました。「冬ごもりの前になると、ムーミンたちは、針葉樹の葉っぱをたらふく、おなかにつめこむのよ」
(『ムーミン谷の十一月』講談社刊/鈴木徹郎訳より引用)

厳密には、マツとモミとトウヒは別の樹木ですが、すべてマツ科の常緑針葉樹。ですから、「針葉樹」も正解です。ムーミン谷に植わっているカエデやりんごなどのさまざまな木々のうち、秋が過ぎ、冬眠直前になっても緑の葉っぱが残っているのは常緑針葉樹だけ。それしか食べものがないから冬眠前に食べるの?と思うかもしれませんが、ムーミンやしきにはムーミンママが作ったたくさんのジャムやシロップがあるはず。長持ちしそうなパンだってあります。それなのになぜ、冬眠前には針葉樹の葉っぱなのか。冬眠をする動物が針葉樹の葉を食べるのは体のとある場所に栓をするため、という説もあるのですが、慎み深いムーミンたちのために詳しく述べるのはやめておきましょう(そういえば、ムーミンやしきにはトイレがなかったような……!?)さきほど、「あんまりおいしくなかったでしょうが」というフレーズがありましたが、確かに、松葉にせよ、もみの葉にせよ、トウヒにせよ、おいしいとはとても思えません。北欧では、春の新芽をハーブのような感覚で食材にすることがありますが、秋にはしっかり育って硬くなってしまっていることでしょう。ムーミンたちがどう思っていたかという答えが、ムーミン・コミックス第8巻『ムーミンパパとひみつ団』収録の「やっかいな冬」(筑摩書房刊/冨原眞弓訳)に出てきます。「モミの葉でおなかをいっぱいにして!」というムーミンママに対し、ムーミンは「チクチクする…モミの葉っておいしくない…」と不満げ。ママは「まあね でも昔からこうなのよ」と諭します。このエピソードではもうひとつ冬眠にまつわるしきたりが登場。それは冬眠前に干し草を集めて、その中で眠る、というもの。しかし、寝つけなかったムーミンパパは「干し草はチクチクするし… なぜ冬眠の前にはモミの葉を食べる決まりなのか… だいたいなぜ冬眠をせにゃならんのだ…」と根本的な疑問に気づいてしまうのです。この続きが気になる方は「やっかいな冬」をどうぞ。

さて、ムーミンたちの冬眠の習慣についてお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか。実はこのムーミンクイズ、今回でちょうど1周年を迎えます。いつもご愛読、ありがとうございます。ムーミンクイズはTwitterのムーミン公式アカウントと連動で、プレゼントキャンペーンを実施していますので、ぜひ公式アカウントをフォローの上、応募してみてくださいね。
2020年、ムーミンは出版75周年を迎えます。ムーミンの奥深い世界をよりいっそう楽しんでいただけるよう、パワーアップしてまいりますので、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

萩原まみ