ムーミン谷に春を告げるのは誰?

3月20日は春分の日。季節は着実に冬から春へと移り変わっていますが、今年は落ちつかない日々が続いていますね。
『ムーミン谷の冬』で冬眠から目覚めてしまったムーミントロールも、真っ白な冬の世界で途方に暮れました。

「きみたちの闇夜は、もうたくさんだ! (略)ぼくは寒さで凍えそうだ。ひとりぼっちで、さびしいんだ。お日さまに早く帰ってきてほしいんだ!」(新版『ムーミン谷の冬』講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)

そう叫んだムーミントロールに、冬のかがり火を焚いてお日さまを呼び戻すのだと伝えた人物。冬の間、ムーミン一家の水あび小屋に住み、冬についてムーミントロールにそっと教えてくれた……このキャラクターの名前は何でしたっけ?ムーミン童話の愛読者の頭に浮かんだのは「おしゃまさん」ではないでしょうか。まだ新版に改訂されていない講談社文庫青い鳥文庫では今も、おしゃまさんと呼ばれています。
ところが、新しくなったムーミン全集では、名前がトゥーティッキと改められました!

これは変更されたというよりは、原語に忠実な名前に戻った、といえます。トゥーティッキのスウェーデン語の表記はToo-ticki、フィンランド語はTuu-tikki、英語だとToo-ticky。いずれも発音をカタカナ表記にすればトゥーティッキで、アクセントはトゥの部分を強めに発音します。
このキャラクターのモデルになったのは、トーベのパートナーだったトゥーリッキ・ピエティラ(Tuulikki Pietilä)。この記事の写真を見ると、姿もよく似ていることがわかりますね。

トゥーリッキもトゥーティッキも通常の人名であって、“おしゃま”のような意味を持つ言葉ではないとのこと。では、なぜ日本語でおしゃまさんと名づけられたのか、今となってはその理由はわかりません。「おしゃま」は“ませている。年齢のわりに大人びた、聡明な少女”というような意味ですから、もしかしたらトゥーティッキがしっかり者だというところから連想した意訳なのかもしれません。ただ、トゥーティッキの年齢ははっきりしませんし、若い少女であるという表現もないので、“年齢よりもませた女の子”ではなく、“年齢相応の大人の女性”と考えたほうがよさそう。そこで、今回の新版で本来の名前に改訂されたというわけです。実は、トゥーティッキの日本語名には、もうひとつ別の名前がありました。それはなんと「おでぶさん」! トゥーティッキが登場する短編「目に見えない子」(『ムーミン谷の仲間たち』収録)の当初の訳では「おでぶさん」と呼ばれていて、『ムーミン谷の冬』のおしゃまさんと同一人物に見えるのになぜなんだろう?と幼心に不思議に思ったものです。
どうやら、英語のToo-tickyがToo-thickyと誤植されたか、too thicky(=とても厚い、太りすぎ、といった意味)からの連想で意訳されたかで、「おでぶさん」と命名されてしまったようです。1990年に全集の新装版が作られることになった際、当時、講談社の担当編集者だった横川浩子さんがそのことに気づき、「おでぶさん」は消え、「おしゃまさん」に統一されました。4月21日発売予定の新版『ムーミン谷の仲間たち』では、こちらもおしゃまさんからトゥーティッキに変わります。

ということで、クイズの答えは、トゥーティッキが正解! おしゃまさんおでぶさんも間違いではありませんが、これからはトゥーティッキという名前も覚えてあげてくださいね。

ちなみに、ムーミン・コミックスでは、1957年掲載の「ムーミンパパの灯台守」(第1巻『黄金のしっぽ』収録)にて初登場。小説『ムーミン谷の冬』も1957年出版ですから、ほぼ同時期に描かれていたことがわかります。また、このお話のなかで、手先の器用なトゥーティッキ(筑摩書房刊/冨原眞弓訳/コミックス日本語版ではトゥティッキ)は、おばけ人を怖がらせる方法を伝授第3巻『ムーミン、海へいく』では、ムーミン一家に船を作り方を教えるなど、小説でフレドリクソンが果たしていた役割を、コミックスではトゥーティッキが担っている箇所が見受けられます。

では、ここで、超難問クイズ。パペットアニメ劇場版『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』 では、彼女は何と呼ばれているでしょう?続いて、現在、シーズン2がNHK BS4Kで放送中の新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』での名前は? Blu-ray&DVDが好評発売中のシーズン1第12話は「姿の見えない子」で、彼女はニンニを助けるために尽力。この作品ではなんと、「ニンニを兄弟に預けた」というやりとりが出てきます。原作では夏の住み処や暮らしは描かれていないのですが、兄弟がいたのでしょうか!?答えはどちらも、おしゃまさん。テレビアニメの歴史を振り返ると、1969年と1971年の昭和版『ムーミン』(フジテレビ系)でも、おしゃまさんと呼ばれていました。アニメ作品によって名前が違うキャラクターといえば、スノークのおじょうさんについても以前ご紹介しましたね。平成版『楽しいムーミン一家』(テレビ東京系)では名前はトゥーティッキでしたが、青い帽子と暗い色のズボンは緑色にアレンジされています。

そのトゥーティッキの帽子、キャラクターグッズなどでは青に赤いぽんぽんで描かれることが多いのですが、実は原作では、冬の間、トゥーティッキがかぶっているのは赤い帽子なんです。春のにおいがすると、トゥーティッキは赤い帽子を裏返します。内側は空の色とそっくりの青! アニメなどで再現するにはややこしい設定ですが、習慣としては素敵ですよね。
春の空色の帽子をかぶったトゥーティッキは、ムーミン谷のものたちを冬眠から目覚めさせるため、明るくにぎやかに、手回しオルガンを奏でてまわります。まさに春を告げるように、1周年イベント「1ST ANNIVERSARY」が始まったムーミンバレーパークの新しいショー「勇気を知った少女~ムーミン谷の仲間たちより~」にもトゥーティッキが新登場! 姿の見えなくなってしまったニンニをいったいどんなふうにステージで表現しているのか、ぜひ皆さんの目で確かめに行ってみてくださいね。ショーの最後にはこんなにかわいいニンニの笑顔が! ショーのお話にちなんだりんごの新メニューや新しいワークショップなども楽しめます。ニンニのお話については以前のブログでもご紹介していますよ。トゥーティッキといえば、数々の名言でも知られています。
「ものごとって、みんなとてもあいまいなのよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれどもね」
「どんなことでも、自分で見つけださなきゃいけないものよ。そうして自分ひとりで、それを乗りこえるんだわ」(『ムーミン谷の冬』より引用)
今、わたしたちは目に見えない未知のウイルスという、あいまいな脅威にさらされています。イベントが中止になったり、時間が変更になったりすることもありますので、最新情報はムーミンニュースなどを参照ください。ムーミンバレーパークは入場者全員の体温チェックを行うなどの万全の対策を取った上で、営業を再開しています。ムーミンの最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』が出版されてから75周年の今年、ムーミンスポットではさまざまなイベントや75周年トートバッグなど記念グッズのリリースが。一刻も早い事態の収拾を願いつつ、うまく気分転換しながら、この時期を乗りこえましょう。外出が難しいときには、ムーミンの本を読んだり、アニメを見たりして、どうぞ明るい気持ちでお過ごしくださいね。

萩原まみ(文と写真)