音痴にスカート!? 『ムーミン谷の彗星』のヘムレンさんたち【ムーミン春夏秋冬】
小説『ムーミン谷の彗星』が出版されてから80周年の今年。ブログ「『コメット イン ムーミンランド』がもっと楽しくなる基礎知識7選」、「もっともっと知りたい!『ムーミン谷の彗星』のこと」など、さまざまな角度から取り上げてきましたが、読み返すたびに気になる存在が……それは、ヘムル(ヘムレン)さんたち!

ちょっとややこしいのですが、「ヘムル」は種族の名前で、「ヘムレン」は原語のスウェーデン語で「そのヘムル」を表す変化形なのだそうです。正確には、『ムーミン谷の彗星』ではヘムルと訳されているのですが、日本では「ヘムレンさん」の名で親しまれていますから、ここではヘムレンさん呼びで進めていきましょう。
昆虫を集めるヘムレンさん
ムーミン谷を脅かす異変の正体を確かめるため、おさびし山の天文台へと向かったムーミントロールとスニフ。川のほとりにテントを張っていたスナフキンと知り合います。
3人でいかだに乗って川を下っていくと、どんどん流れが激しくなり、真っ暗なトンネルに突入。濁流が穴へと吸い込まれそうになった瞬間、マストがトンネルの天井につっかえて、いかだが止まりました。間一髪、水に落ちるのは免れたものの、岩の割れ目の先にほんの少し空が見えるだけでどこにも逃げ場はありません。スニフは「だめだ、ぼくは鳥じゃないもの」と泣きだし、スナフキンは励ますようにハーモニカで冒険の歌を吹きはじめました。
ハーモニカの音色は山の割れ目を伝って上へ響き、こだまとなった歌がひと眠りしていたヘムレンさんの耳に届いたのです。
「やかましいな。このへんに、なにかやかましいものがいるぞ」
と、彼はつぶやいて(このヘムルは、音痴でした)、しまいには虫めがねをつかんで、草の中を探しはじめました。(『ムーミン谷の彗星』講談社刊/下村 隆一/訳より引用、以下同)

助けを求めて叫ぶムーミンたちをめずらしい新種の虫だと思い込んだヘムレンさん。昆虫採集の網を割れ目に差し入れ、その重さにうんうんうなりながら引っ張り上げました。
「わしが、おまえさんらを助けただと? そんなつもりではなかったがなあ。わしは、この下でやかましい音を立てとった、めずらしい昆虫をつかまえようとしただけだ」
……ヘムルという生きものはだいたい、飲みこみがわるいのですが、怒らせさえしなければ親切なのです。(同)
命の恩人にもかかわらず、「音痴」だの「飲みこみが悪い」だの、なかなかの言われよう。気の毒なヘムレンさんの受難はまだ続きます。
ヘムレンさんに石をぶつけたのは……!?
天文台で、彗星は4日後に地球に衝突すると知ったムーミンたち。ムーミン谷に戻ろうと夜通し歩きました。
「くたびれたよう」とゴネるスニフを休ませている間、スナフキンは大きな石を転がして崖っぷちから落とす遊びをはじめました。小石をはねとばしながら、ゴロゴロと石が落ちていく音を聞いて、スナフキンは上きげん。ところが、もっと大きな石を落とそうとしたムーミントロールが石といっしょに転がり落ちてしまいます。

体に巻きつけていたロープのおかげで、なんとか命拾い。3人は再び歩きだし、山を下っていきました。
ふもとの干上がりかけた小川に足を浸けて、一休みしていたのは昆虫採集家のヘムレンさん。
「山くずれじゃ。じつにおそろしかった。家ほども大きい石がゴロゴロ飛んできて、とっておきのガラスびんが割れてな。わしも、もう少しでつぶれるところだった。見てみい。頭にたんこぶができた。ほれ、これじゃ」 (同)

頭にたんこぶをこしらえたかわそうなヘムレンさん、3人のなんともいえない表情。見れば見るほど味わい深い挿絵です。
切手を集めるヘムレンさん
その後、スノークのおじょうさんと兄のスノークとも知り合い、ムーミン谷へと歩を進めてきた一行は、森の中で切手のアルバムを抱えて座り込むヘムレンさんと出会いました。
「こんにちは。あなたは蛾の好きなヘムルと、親類ですか」
ムーミントロールがたずねました。
ヘムルは、きらいだという気持ちをかくしきれずに答えました。
「あれは、わしの父方のいとこだ。大ばかものよ。もう、親類でもなんでもないわい。あいつとはもう、縁を切ったんだ」
「どうして?」
スニフが聞きました。
「あいつは、一つのことしか目に入らん。昆虫、昆虫、昆虫、そればっかりじゃ。足元で地球が割れても、あいつは気にもせんだろうな、きっと」 (同)

と言いつつ、このヘムレンさんは切手、切手、切手、そればっかり(笑)。そして、こちらの切手収集家のヘムレンさんも、この後、さんざんな目に遇うはめに。
服をはぎとられるヘムレンさん
ヘムレンさんは大切な切手コレクションを守るため、ムーミンたちといっしょに避難することにしました。しかし、強い風が貴重な切手をさらい、空に舞い散らせてしまったのです。けたたましく叫び、切手を追って走り出したヘムレンさんに、ムーミントロールは服を貸してくれるよう頼みました。ヘムレンたちはどういうわけかスカートをはいているので、服で気球をつくれば家まで飛んで帰れると思いついたのです。
みんなはよってたかって、ヘムルの服を頭からすっぽり引きはがしてしまいました。
それは、ヘムルがおばさんの形見にもらったすごく大きな服で、すそにフリルがついています。首のところのひもをしっかりしめて、そでにひもをむすんだだけで、まったくすてきな気球に大変身したのでした。 (同)

この気球のおかげで、ムーミン谷の近くまでひとっ飛び!ヘムレンさんはフリルをしわくちゃにされたとご立腹でしたが、ムーミンやしきにたどり着いたとき、切手コレクションと再会することができました。吹き飛ばされた切手は、なんとムーミンママが外でふくらませていたパン生地にくっついていたのです。
余談ですが、この挿絵は以前、ムーミン公式ファンクラブのノベルティ「ヘムルの変身風呂敷」としてグッズ化されていました。こちらは終了していますが、9月から登場の新ノベルティもファンの心をくすぐるかわいさです。
ヘムレンさんはおじいちゃん?
さて。『ムーミン』(フジテレビ系/1969年)と『楽しいムーミン一家』(テレビ東京系/1990年)のテレビアニメシリーズでは、ヘムレンさんは顔や服が紫色でやや腰の曲がった姿、声や口調もおじいちゃんっぽい雰囲気でした。原作では実はそれほど年配の設定ではなさそうなのですが、コレクターで学者肌という人物像から、そのようなポジションを割り当てられたのかもしれません。
そういえば、9月21日は敬老の日。昨年、ムーミンバレーパークで行われた敬老の日キャンペーンでは、ヘムレンさんがバナー画像に登場しました。65歳以上は前売券2500円で楽しめる平日限定のシニア割引も好評継続中。今年もシルバーウィークの9月19日(土)~9月23日(水・祝)は敬老の日キャンペーンでシニア割を実施し、さらに敬老の日当日は65歳以上の方は1デーパスが無料に。今年のイベント詳細はこちらでお知らせしていきます。
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『ムーミン谷の彗星』は、“We are braver together.(一緒にいれば、もっと勇敢になれる)“という2026年のテーマにも象徴されるとおり、彗星接近の脅威のなかで仲間たちと旅をする勇気の物語。しかし、ムーミンの日のスペシャルイベントで美村里江さんが語っていらしたように、緊張のあとには緩和があって、今回取り上げたヘムレンさんたちはふっとなごむような緩和の部分を担っているといえるでしょう。ヘムレンさんにまつわる語り口や挿絵からは、原作者トーベ・ヤンソンの遊び心やユーモアが伝わってきます。
9月30日〆切の「ムーミンのものがたり 読書感想文&感想画コンテスト」のために読書をなさる方は、ぜひさまざまな角度から物語を楽しんでいただければと思います。
また、ムーミンのお話には他にも大勢のヘムレンさんが出てきます。ブログ「ヘムレンさんに愛を!」と「もっともっとヘムレンさん!」で詳しくご紹介していますので、どうぞそちらもご参照くださいね。
文/萩原まみ(text by Mami Hagiwara)