(229)夏の旅と色のついたムーミン【フィンランドムーミン便り】

90年代に入るとフィンランドでも色のついたムーミンたちが登場するように
夏といってもサマーハウスのない私は一つ所にずっといるわけではなく、友人たちのサマーハウスを目指しあちこち旅をする。トーベ・ヤンソンの二人の弟たちはサマーハウスがありながらも、ラップランドで一週間ほど川下りをしていたし、トーベ・ヤンソンにしてもずっと孤島にいるわけではない。ボートででかけるし、家族や友達を訪ね、隔週くらいで買い物にも行った。そうそう、ヤンソン一家が家族ぐるみの付き合いをしているグスタフション一家とは一緒に海に出て、岩礁でカーペットを洗い、島でピクニックする一日がかりの行事もあった。
トーベが子どもの頃から夏を過ごしたペッリンゲ然り、フィンランドでは夏になると小さな村で音楽フェスティバルをはじめ、期間限定のカフェや展覧会、家の庭先を使った蚤の市、地元や近隣の生産者や夏休みのお小遣い稼ぎで工芸品や食べ物を作って売る人たちの店が並ぶ青空市が開催される。だから夏の旅の寄り道は格別に楽しい。そんな感じで立ち寄った町で、オープンしたばかりのリサイクルセンターがあった。さりげなくムーミンの生地があるではないか。ところがなんだか様子がおかしい。ムーミンたちに色がついていたので、おそらく90年代にフィンランドでムーミンアニメが大人気になった時の商品だろうとは思ったものの、表情がアニメのそれとは違うし、もちろん原作とも違う。しいて言えば、アニメに似せている。フィンランドの生地は通常ブランド名が脇に書かれているからすぐに確認できると思いきや、その布は何かを作ろうとした志半ばで放置されたものなのか、その部分がきれいに裁たれてしまっていた。いや、それとも正規品ではないのか?という不安まででてきてしまい、結局私は買わなかった。
それから何週間かして、私は別の町にいて、そしてテキスタイルのプリントで栄えた町の博物館にいた。フィンレイソンがこれまでにプリントしたパターンが展示されていて、見てまわっていて、突然私の目の前にリサイクルセンターで見かけた柄が現れた。確かにトーベ・ヤンソンはかつてフィンレイソンのためにムーミンのデザインをしたこともあったしと考えながら思い出した。90年代のムーミングッズは「えっ?」と思うようなものが意外とあった。絵本などは、正直なところ「これは私の知っているムーミンじゃない」と思うこともあった。昭和ムーミンで育った私だけれども。それを考えたら、このムーミン柄があったって確かに何も不思議ではない。しかもミュージアムで眺めているとなかなか味わいのある柄ではないか、なんて思えてくる。
これをデザインしたのはイラストレーターでテキスタイルデザイナーのリーサ・コタ。フィンレイソンは1988年にはムーミン柄を出しており(つまりアニメが放映されフィンランドで空前のムーミンブームがやってくる前のこと)、当時は原画を元にしているものの、原画とは異なる印象を残していた。ただここから大きく変わったのが1991年。ムーミンたちに色がついた。表情などの味わいだけでなく、ムーミン一家に色がついたのだ。ところがその色はアニメを踏襲しているわけでもない。そして時々白に戻る。自由だ、と思った。勝手なんじゃなく自由。その違いはと考えると、根底に愛があるかないかなのかもしれない。だんだん目の前のムーミンたちが可愛く思え、いいなあと思うようになったときに、そんなことを思った。
リーサ・コタのテキスタイルデザインはこちらのデータベースから確認できます。

群島で夏に時々開催される庭先の蚤の市
森下圭子