この子の名前は? 名付け親は誰?
3月に入り、日に日に春めいてきましたね。今回のブログ「ムーミンクイズ~めざせ、ムーミン博士~」は、今の時期にぴったりの短編「春のしらべ」からの出題です。
といっても、この短編、次のような一節から始まります。
四月の末の、よく晴れた、おだやかな晩のことでした。北へ北へとめざしてきたスナフキンは、まだ北側に雪が消え残っているあたりまで来ました。
(「春のしらべ」『ムーミン谷の仲間たち』収録/講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集より引用、以下同)
そう、実は3月ではなく、4月のお話。でも、4月末といえば日本ではもう初夏の気配が感じられる陽気ですから、ちょっと先取りして ご紹介してみたいと思います。
それでは、出題です。
この小さな生きものの名前は何でしょう?
そして、その名前を付けてあげたのは誰?
プロダクトレーベルThe little onesのひとりとして、さまざまなグッズが発売されているほか、キタンクラブのフィギュア「座るムーミン」シリーズにも登場していますよ。
ストーリーに触れると答えのひとつがすぐわかってしまうのですが、有名なお話ですから、とっくに正解が浮かんでいる方も多いかもしれません。
冬の間、南で過ごしていたスナフキンは、北、つまりムーミントロールの待つムーミン谷へと向かう途中でした。
スナフキンはもう何日も、あたらしい歌を頭のなかであたためていました。最初の部分はあこがれ、次の二つの部分は春のものがなしさ、そして気ままにぶらついて独りでいられるという大きなよろこび。それは今までに作ったどの歌よりも素晴らしいものになりそうでした。
でも、歌がほんとうに出来上がって飛び出してるまで、慎重に待たなくてはいけません。もしも早めに出してしまったら、台無しになってしまうかもしれないからです。
今晩はきっとだいじょうぶ、そんなふうに考えながら、スナフキンはキャンプする場所を見つけました。気持ちのいい小川のほとりです。
乾いたたきぎを探して小さなたき火をし、そまつなスープの夕食を終えて、小川で鍋をゆすいでいるときでした。
一匹のはい虫が、川の向こうの木の根元に座り、ぼさぼさの前髪の下からじっとこちらを見ているのに気づきました。スナフキンは、見なかったふりをしました。なんといっても今夜は、あたらしい歌が生まれる大切な夜なのです。
ところが、あと少しのところまで来ていたはずの歌はなかなかやって来きません。はい虫の目がじっと見つめているのを、ひしひしと感じます。
スナフキンはついに「しいっ、あっちへ行け」と、大声を出しました。それなのに、はい虫は川を渡り始めたではありませんか。はい虫に話かけられて、歌を取り出すタイミングを失ったスナフキンは、こうなったら気楽に話をしようと、「きみはなんて名前?」とたずねます。
「ぼく、あんまり小さいもので、名まえをつけてもらえなかったんだ。(略)あの、もしできたら、つまりその、ぼくの名まえを考えてくれるなんていうのは、ものすごくめんどうでしょうね。ぼくのだけで、ほかのだれのものでもないやつを。今夜、いや今、この場でさ」
スナフキンはもごもごと、帽子を目のところまで下げて言いました。
「あんまりだれかを崇拝すると、本当の自由はえられないんだぜ」
……やがて、はい虫が「もうぼく、家に帰るよ」と去ろうとしたとき、スナフキンは少しもじもじして、こう告げました。
「きみの名まえのことだけど、ティーティ・ウーっていうのはどうだろう。(略)たのしそうにはじまって、とてもせつなくおわるんだ」はい虫の名前はティーティ・ウー、名付け親はスナフキン、でした。
今回は即答できた方も多かったのではないかと思います。
原作を読んだことがなくても、新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』(NHK Eテレで放送中)のシーズン1第2話「春のしらべ」でも描かれていますし……
ムーミンバレーパークのコケムスにもこんな展示が。
体感アトラクション「サウンドウォーク~春のしらべ~」でも、物語を体験することができます。
しかし、この短編は「スナフキンが旅の途中で出会ったはい虫にティーティ・ウーと名前をつけてあげる」というだけの、ほのぼのと単純な“いい話”ではありません。
スナフキンに寄り添って読むか、はい虫に共感しながら読むかによって、印象は大きく異なりますし、始まりと終わりとでは、スナフキンの気持ちも、ティーティ・ウーの生き方も変化していきます。
ですから、ぜひご自身で、実際にご一読を!
新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』では、原作のセリフや展開を大切にしつつも、スナフキンがムーミントロールとティーティ・ウーの夢を見る場面などのオリジナル要素が追加されています。
スナフキンの声を演じているのは高橋一生さんで、ティーティ・ウー役は河本邦弘さん。
ムーミンバレーパークのサウンドウォークのキャストは櫻井孝宏さんと花江夏樹さんです。
平成アニメ『楽しいムーミン一家』(テレビ東京系)第24話「帰ってこないスナフキン」ではスナフキンは子安武人さん、ティーティ・ウーは坂本千夏さんでした。
同じ原作を元にしていても、それぞれに演出もトーンも異なります。それだけ、さまざまな解釈ができる奥深い作品といえるでしょう。
『ムーミン谷のなかまたち』はDVDや配信で、『楽しいムーミン一家』の英語版はyoutubeのMoomin Officialアカウントで見ることができますから、見比べてみるのも一興です。
最後に細かいことをつけ加えておきますと、原語ではTi-ti-oo(英語はTeety-woo、フィンランド語はTi-ti-uu)の日本でのカタカナ表記はティーティ=ウー(=は半角)でしたが、新版でティーティ・ウーと改められました。
他にも、旧版ではランドセルだった箇所がリュックに変わっていたり、ティーティ・ウーの名前の説明も「はじめはあかるくて、おわりはすこしかなしそうにおわる」から「たのしそうにはじまって、とてもせつなくおわる」と変わっていたり。旧版に親しんできた方も、新版を読んでみるとまた新たな発見があるかもしれません。
萩原まみ(文と写真)