「飛行おにのジップライン」でルビーを探せ!

5月の第5週はブログ「ムーミン春夏秋冬」番外編として、ムーミンバレーパークの人気アトラクション「飛行おにのジップラインアドベンチャー Taikurin seikkailupaikka(タイクリン セイッカイルパイッカ)」をご紹介しましょう。

ジップラインというのは、体にハーネス(安全帯)を取り付け、ワイヤーロープにセットした滑車を使って、空中を滑り降りていく、スリル満点のアクティヴィティです。手軽に自然を体感できる遊びとして世界中で楽しまれていて、日本にも施設が増えつつありますが、まだ未経験~という方も多いのでは? また、ムーミンバレーパークのなかで、もっともハード(?)なアトラクションともいえます。テーマパークといえば絶叫マシン!なんて方にもおすすめです。「飛行おにのジップラインアドベンチャー」を体験するには、まずは予約。人数に限りがあるため、完売しやすいので、アフタヌーンプランなどを利用して早めにチケットを押さえましょう。予約時間の少し前に、「海のオーケストラ号」の先にある赤茶色の小屋へ。受付、ハーネスとヘルメットの装着を済ませたら、園内の高台にある「おさびし山」エリアまで歩いて登ります。これが運動不足の大人には地味にキツイ(笑)。ハーネスを付けるのでスカートはNG、歩きやすくて脱げにくい靴(湖に落ちたら拾えませんから!)で行きましょう。

おさびし山の出発地点に到着したら、スタッフの方が、湖の向こう岸まで張られたワイヤーにハーネスのフックをしっかりセットしてくれます。いざ、空中散歩の始まり! ハーネスで吊られるのはブランコに乗っているような感覚で、足の下には湖が広がり、まさに空を飛んでいる気分! 安全性確保のため、あまり大きく動くことはできませんが、木々の間を抜けて湖の上に出ると、ぐるりと視界が開け、メッツァムーミン屋敷水あび小屋などが一望できます。初夏の青空へと飛び出すのは、最高に気持ちいい!(強風など、ひどい悪天候のときは中止になります。お天気があまりよくないときは……荒れた海に漕ぎだす冒険好きなムーミン一家の気分で挑みましょう!) 曇りも夕暮れも、それぞれに美しい風景が楽しめますよ。
湖の向こうに渡ったら、対岸からもう一度、受付の小屋の隣にある終着地点まで、滑空して戻ります。往復約400m。あっという間ですが、忘れることのできない体験ができるはず!

さて、このアトラクションももちろん、ムーミンのお話をベースに考案されたもの。飛行おにというのは、小説『たのしいムーミン一家』に登場するキャラクターです。
日本語では“飛行おに”と呼ばれていますが、スウェーデン語名のTrollkarlenもフィンランド語名のTaikuriも、“魔法つかい、マジシャン”という意味の言葉。言われてみると、黒いスーツにマント、シルクハット、白手袋というスタイルは、マジシャンっぽいですよね。英語ではHobgoblinというちょっと怖いイメージをもつ妖精の一種の名前に訳されていたため、日本語では英語を元に“飛行おに(=空を飛ぶ鬼)”というオリジナルの名前になりました。
飛行おには不思議な力を持っていて、黒ヒョウにまたがって宇宙を飛びまわり、“ルビーの王さま”と呼ばれる、この世にふたつとない大きな大きなルビーを探しています。彼の黒いシルクハットにも、中に入ったものの姿を変えてしまう力があって、ムーミン谷に数々の騒動を巻き起こすのです(飛行おにの魔法のぼうしは、エンマ劇場で上演中の「たのしいムーミン一家~春のはじまり」でもキーアイテムになっています)。
このお話にちなんで、ジップラインのルート上には飛行おにが探し求める“ルビーの王さま”が隠されています。見つけることができたら、飛行おにが願い事をかなえてくれるかも!? 最後まで気を抜かず、飛行おにになりきって、空中遊泳を堪能してくださいね。ムーミン童話シリーズ第3作のこの作品は、6月3日に新版が発売されます。実はこの新版に、スナフキンと飛行おににまつわる記述が追加されているのです。少し引用してみましょう。

「黒い馬のようなものにまたがる小さな黒い騎手のすがたが、スナフキンの視界に入りました。ほんの一瞬でしたが、雲の壁のてっぺんの、雪のように白いところへ向かって、乗馬服のコートを羽のようにひるがえしながら、高く上っていくのが見えたのです(略)。(飛行おにだ! あれは飛行おにと、やつの黒ヒョウだったにちがいない。本当にいたんだな……おとぎ話の中だけじゃなくて)」(新版『たのしいムーミン一家』講談社刊/山室静訳、畑中麻紀翻訳編集より引用)

英語版をベースにした日本語訳の旧版では、最初に飛行おにへの言及が登場するのは、スナフキンが“かささぎ”から聞いたとして語るお話の中でした。トーベ・ヤンソンが書いたスウェーデン語版には、それに先立って、スナフキンが飛行おにを目撃する場面があったのです! さらに、その後、スナフキンが語るお話も“かささぎ”ではなく、別の人物から聞いたと、改訂されました。それが誰かは……新版を読んでのお楽しみ! 他にも、原著に忠実に細かな修正が加えられたほか、文章も現代ふうに読みやすく整えられています。読んだことがない方はぜひ新版を、旧版をお持ちの方は新版と読み比べてみるのも一興です。

余談ですが、このブログ担当のライター萩原はすっかりジップラインにハマって、すでに2回、飛行おに気分を味わいました。ルビーの王さまもばっちり見つけて、“またムーミンバレーパークに遊びに来られますように!”“ムーミン人気がますます盛り上がってブログ読者が増えますように!”と、飛行おににお願いしました(笑)。ひとつめの願いは実現したので、ふたつめもきっと……!

萩原まみ(文と写真)