【H】Hemulin leikkipaikka ヘムレンさんの遊園地

ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、
アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」

パークの「冒険と思索の山」であるおさびし山エリアには、ムーミンの物語の中で短編が
集められた小説『ムーミン谷の仲間たち』に登場する「静かなのがすきなヘムレンさん」というお話をモチーフしたツリーハウスやアスレチックがあります。

今回の【H】は、「ヘムレンさんの遊園地」(Hemulin Leikkipaikka)です。

 

ムーミン谷にはたくさんのヘムル族―ヘムレンさんが住んでいます。
この短編に登場するヘムル族は陽気なおしゃべりが多いのですが、遊園地で入場券を
パチンパチンと切る仕事をしていたヘムレンさんはしずかなのが好きで、
老後は年金で暮らしたいと思っていました。

ある時、大雨が続いて遊園地が流されてしまい閉鎖してしまうのですが、
閉鎖で悲しむ子どもたちのために、手作りの遊園地をつくることを決めるのです。

 

想像をかたちに―素材と手作りへのこだわり―

実際のお話の中には、ヘムレンさんがもともと働いていた遊園地にあったものや、また、
そのあとにどのような遊園地をつくったのか、文字でのヒントはいくつかでてきます。
メリーゴーランド、ヘムルの幼児引受所、てまわしオルガン、ジェットコースター、
「かがみのへや」、「ふしぎの庭」ピンク色のばら、「幸福の家」、
わに、りんごの木、木登りの木、スイッチバック 、トンネル、
ジューススタンド、ぶらんこ、飛び込み台、ハンモック、
それから、「まほうの家から」とってきたお月さま、とか。

それでも、具体的な挿絵は出てきません。

そこで、パークのヘムレンさんの遊園地には、子どもたちが思いきり遊べるアスレチックを
つくりたい、それも、町の公園にあるような鉄製の遊具ではなく、物語に出てきそうな、
子どもたちが見ただけでワクワクして走り出してしまうような自然の素材を使った
ツリーハウスのものがいい、という強いこだわりがありました。

安全性を担保しながら、素材や世界観にこだわるという、難しい要望が実現するまでの過程は、
書ききれないくらい紆余曲折があるので、今回ここでは割愛させていただきますが、
なんといっても、最初のプランの美しいスケッチと、実際に完成したものがほぼ同じ、
ということはみなさんに自慢させていただきたいことです!

※2021年1月現在はボルダリングの壁とネットの仕様は変更しています。

この場所は、物語さながらに、子どもたちのためのアスレチックとしてつくっているのですが、
オープン当初は、大人の方々もたくさん上に登ってツリーハウスや吊り橋が揺れて、
耐荷重に耐えられなくなるのでは、と心配してしまうことがありました。
また、滑り台等の遊具も、対象年齢に沿って作られているのですが、
大人の方が使用すると重さでスピードが出てしまって危険なこともありましたので、
はっきり対象年齢を「6 歳~12歳」(付き添いの大人の方を除く)とさせていただいています。

今日は、通常は大人の方だけだとみることができないツリーハウスの中がどのようになって
いるのか、少しご紹介させていただきたいと思います。

いろいろ見て回りたくなるいろんな形の窓

 

曲線的で、ひとつひとつ丁寧につくられた美しい意匠

 

ヘムレンさんが、大切なものをそっと置いてあるような息遣いを感じられる内装

ヘムレンさんの中には、植物を集めるのが生きがいのヘムレンさんもいますので、
このヘムレンさんも、植物好きな遺伝子もいくらかはあるのではないか、など想像しながら、
植物をモチーフにした北欧のアンティークの品々をそっと飾っています。

それから、ヘムレンさんが遊園地で入場券を切っていた頃の、切符切りも置いてあるんですよ。

 

看板のひみつ

物語(『ムーミン谷の仲間たち』)の中から、
あるおだやかなうつくしい夕方に、公園が完成し、ヘムレンさんが子どもたちに
「ここは遊園地じゃなくて、静かな園なんだよ」と。
でもそのあとに、少し気が変わって、
「明日はみんなにいおうかな。きみたち、笑ってもいいし、
気が向いたときは鼻歌くらいならちょっとはいいよって。
でもそれ以上はだめだな、ぜったいに」
ヘムレンさんはそんなことを考えながら、ハンモックに戻るのです。
静かなのが好きなヘムレンさんが言ったこの言葉が、印象的だったので、
アスレチックの入口の看板に、ヘムレンさんの手書きのようなイメージで、
静かな園 ヘムレンさんの遊園地」とフィンランド語で入れました。
静かな園、と書いたけど、あとから、くしゃくしゃっと消したことがわかるような。

 

はなうま(うみうま)のメリーゴーラウンドの誕生秘話

物語に登場する、手作りの遊園地にある「メリーゴーラウンド」、というのものは
どんなものなのだろう。
少なくともギラギラの電飾のものではなさそう…と想像したときに、
北欧でたまたま見つけたこのタイプの遊具にノックアウトされたことを思い出しました。
そう。自分でこぐタイプの遊具です。そしてこれは、ひとりでも漕いで回ることはできるけど、
みんなで協力して漕いだ方が、スピードも出て絶対に楽しい!
それから、随分昔に考えたメッツァの体験価値「体験」とか「みんなで協力して達成する」
というコンセプトにも当てはまると思い、これだ!と、制作会社さん伝えたところ、
こういったタイプのものはヨーロッパにはあるが日本にはほとんどない、ということが
わかりました。そうはいっても、どうにか実現させたい!と、遊具のレギュレーションが
厳しい日本の遊具業界で、どのような設計や、設備を用意すれば実現できるのか、
ということをひたすら試行錯誤いただき、完成させた渾身の遊具です。
当初は、ヘムレンさんの遊園地に出てくるような素朴な動物などをモチーフにして
回転させることを考えました。
北欧うまれの物語だから、トナカイを入れよう!とも。
でも、やっぱり、はなうま(うみうま)がいいんじゃない?と作者トーベの姪で、
ムーミンキャラクターズ社の会長のソフィア・ヤンソンからも言われて、
ヘムレンさんのお話の中には出てこないけど、ソフィアがOKなら、
ムーミンの物語に登場するはなうま(うみうま)には、みんな絶対乗りたいよね。
ということになり、はなうま(うみうま)のメリーゴーラウンドにシフトチェンジしました。

そしてこのメリーゴーラウンドには、いくつか物語からのエッセンスを取り入れています。
遊園地の部品をつかった「かがみのかけら」からインスピレーションを受けて、
屋根のまわりに鏡がついていたり、「ふしぎの館」からもってきた月のあかりとか、
完成した遊園地を眺めるヘムレンさんの挿絵がきらきらしていてとても印象的だったので、
上には、きらきらと光るモビールを吊りました。子どもたちがふと見上げたときに、
気づいてくれたらいいな、なんて思いながら。
床に敷かれているゴムチップの色も、まわりの自然と調和するものを選びました。

 

変わっていくものと松の木

ヘムレンさんの遊園地ができる前、いまのアスレチックエリアの敷地の中心あたりに、
葉がくるくると巻き付いた印象的な松の木がありました。
アスレチックを作るにあたり、伐採という案もあったのですが、ツリーハウス作家さんが、
もともとあったこの松の木を活かして、ツリーハウスの中を突き抜けるような
プランを提案してくれ、一緒にツリーハウスに溶け込む景観となっていましたが、
オープンからまもなく2年。
この松の木が害虫の影響で腐ってしまっていることがわかり、
このたび、この腐ってしまった箇所を伐採することになりました。
これは、腐った箇所が折れてしまって、万が一ゲストの身に何か起こってしまっても
危険なので、ゲストの安全性を最優先した結果です。
なので、見栄えがちょっと変わります。
この木の上の方には、小さなかわいい巣箱もついていたので、それもお引っ越しです。
木も、こちらがコントロールできない自然の生きものであるからこそ、
いつかは朽ちていきます。
時間の経過とともに、変わってしまうことは悲しいかもしれませんが、変化は必然で、
その儚さが美しくもあり、一瞬一瞬が大切に感じることもできるかもしれません。

また、チョークで思い思いにお絵かきいただいていた「きのこの黒板」も、
現在は新型コロナウイルス感染症対策として、使用をご遠慮頂いている状態です。

「変化」に対しては、ムーミンママが『ムーミンパパ海へいく』で、こんな言葉を
言っていたことがあります。
ムーミン一家が灯台で暮らしていたある日、今までは家に帰ったときにはずっと家にいて
家族の世話をしてくれたムーミンママが家におらず、しばらくして帰ってきます。
ムーミンパパは、「わたしたちが夕方家に帰ってくると、おまえさんがいつもここにいる―
こういうことになっているんだから」と、戸惑いを示します。
ムーミンママはこう言います。
「たまには変化も必要ですよ。わたしたちはおたがいに、あまりにも、
あたりまえのことをあたりまえと思いすぎるのじゃない?」

この言葉に、はっとさせられる方も多いのではないでしょうか。
今の状態というのは、ずっとあるものではなく、
いつ変わっても不思議なものではないんですね。

現在の松の木がある景観が見られるのは2月までになります。
今のツリーハウスを見たい、と思う方は、ぜひ、おさびし山まで足をお運びいただき、
今の当たり前の状態である、しなやかに伸びている松の姿、
それから木の上にちょこんと乗っている巣箱、を目に焼き付けてあげてください。
そして今度は、3月に入ってしばらくしたら、その松の木はほとんどなくなっていて、
あの巣箱も、どこかに移動しているはずです。
そちらもよかったら、探してみてください。

  これからも、パークはどんどん変化していくと思います。

  それは、時代の変化や、環境の変化、世の中の変化、など、理由はさまざまであると
想像します。
ひとつ言えるのは、私たちは、ゲストのみなさんに安全に心地よく過ごしていただく
ための最善の選択をすることへの変化は恐れずに挑戦していきたいということは、
どのような理由があっても、変わらないことでありたいと思います。

 

 

――――――
株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)