(190)推し活とムーミン愛【フィンランドムーミン便り】


年々表情や作品世界が深まっていくムーミン氷の洞窟より

ムーミングッズを何十年と見ていると、ムーミン愛が溢れ、時には愛が行き過ぎているくらいのグッズに出会うことがある。それはフィンランドでも日本でもあって、そんなものに出会えると、思わずニヤニヤしてしまう。例えば日本でならアニメのDVDセットに入ったムーミンパパのポスター。ムーミンパパだけのポスターをなぜまた?と思って本人に聞いてみたら、「こんな完璧なポーズをしているムーミンパパ。でも私がポスターにしなかったら、もう誰もポスターにすることがないだろうから」という答えが返ってきた。個人的には挿絵に描かれている家具を集めて服の柄にしてしまったのも好きだった。私がやらなくて誰がやる、そんな風に考えながら、ムーミンのグッズを企画している人たちは、昔も今もいて、あらゆる挿絵の細かいところまで覚えているし熟知されている。

フィンランドで印象深かったのはノードクヴィスト。ムーミンのフレーバーティーという彼らの商品は、フィンランドのスーパーで必ずといっていいほど見かける。家族経営のアットホームな会社で、ムーミンのフレーバーティー会議は、キャラクターのイメージを家族みんなで語り合うところから始まるのだそう。スナフキンなら冒険だから、少し冒険した味がいいよねということで、一般には馴染みの薄い緑茶をベースにし、ムーミンとスノークのお嬢さんが肩を寄せ合っている絵には甘く優しい味を、そんな風に家族でキャラクターのイメージとイメージにあった味や新しい組み合わせを考える。

最近ではムーミングッズをデザインする側も、物心ついた頃からアニメに始まりムーミンとともに成長しましたという割合が大半を占めるフィンランド。彼らのデザインの背景に触れられたらと質問すれば、ムーミンの好きな場面やらアニメの中のフレーズが次々と出てくる。先月訪れたムーミン氷の洞窟。そこもまた、氷の彫刻家だけでなく、スタッフたちのムーミン愛が空間全体に溢れていた。

日本には推し活という言葉があると教えてもらった。そして推しは誰?と聞かれて、少し考えてみて、やっぱりムーミンになるのかなと答えた。作品が生まれた背景を経験したいとその国に渡り、そのまま住んでしまった「好き」が、果たして推し活として受け入れてもらえるのかどうか定かではないけれど。先日、一時帰国中にムーミンの仕事を一緒にしたことのある仲間たちで集まることになった。私たちが集うのは4年ぶりで、どういう会にしようか考えた末に「推し活」というのをやってみようということになった。

アルファベットでTOVE4つのバルーンを用意し、細長い白のバルーンに手を貼り目を描いてニョロニョロを手作りしたり、DVDを見たり、フィギュアを並べたり、「尊い」を連呼したり、さらには自由研究の発表まであった。ポスターを貼り(先述のムーミンパパのポスターもある)、ペンライトを振り、推しの色のドリンクというのも、ムーミンってそれなりにイメージの色があるような気がして(緑はスナフキン、紫はヘムレンさんとか)、それぞれ好きな色のドリンクを並べて写真を撮ったりもした。

フィンランドにはテーマ付きのお誕生会がよくある。ムーミンをテーマにしたお誕生会は、今や子どもだけのものでなく、大人たちもやっている。それとはまた別に、フィンランドに戻ったら「推し会」っていうのを勧めてみようかと思う。きっと楽しい。そうだ、自分たちでひと工夫してムーミンをより一層愉しむというのはトーベ・ヤンソンがかつてグッズを手がける際に願っていたことでもある。私たちの推し活会では、最後にビンゴをやり、さらにはスウェーデン語の翻訳者がムーミンの物語の中から楽しくなるフレーズを抜き出し、原文と訳をつけたカードを飴の小袋に添えて全員に配ってくれた。フィンランドでの工夫や日本の工夫、ムーミン愛でどんなことをしているか、いろんな人たちの話を伺えたらどんなにいいだろう。


ムーミントロールとスノークのおじょうさんのふたりが並ぶ姿はグッズ化されることも多い

森下圭子