(171)ヤンソン家とグスタフション家

大小の島が点々と続く群島ペッリンゲ。トーベ・ヤンソン、10代のときは頃合いの良い島を見つけては、勝手に小屋を建てて寝泊まりしていたという。

トーベ・ヤンソンの評伝を訳しながら泣くこともあれば、笑ってしまうこともあった。笑ったといえば子どもの頃の無茶っぷりだ。手作りの毛皮のズボンを履き手漕ぎボートで島巡りしたときは日記に絵入りで残したほどで、本人にとっても強烈な体験だったのだろう。

群島ペッリンゲには今も、トーベの無茶っぷりや大胆な行動、笑っちゃうようなエピソードが語り継がれている。7月にペッリンゲの青空エアロビクスに参加した時には、そこに居合わせたおじさんが「大晦日にトーベとこっくりさんをした」と話してくれた。私くらいの年齢の方なので、トーベは自分の孫くらいの男の子とコックリさんをやっていたことになる。

そしてトーベは語り継がれるだけでなく、トーベがいた頃の行事が今も続いていたりする。

ヤンソン一家は夏のあいだグスタフション一家の母屋を借りていた縁で家族のような付き合いになり、それは今もなお続いている。

一年ぶりのペッリンゲ滞在で、私はグスタフションさんに電話をした。すると「いま競技中なんだけど、君の良く知る人たちも結構いるから遊びにおいで!」と言ってくれた。その競技とは、ヤンソン家とグスタフション家が昔から恒例にしていた「盛大に遊ぶ一日」が少しずつ形を変えて今のようになった。スポーツやクイズなどのさまざまな競技があるけれど、この日のメインはボートレースだ。

二人一組のチームになり、全員が仮装して近くの島をぐるりと一周するのだ。海賊、ドラッグクイーン、おばあちゃん、マリリンモンロー、トーベとトゥーリッキ、そしてボートは何だっていいのだ。ゴムボートのチームがいればクルーザー、手作りの木造の船、手漕ぎボート、まちまちだ。モーターをつけるものもいれば、その馬力はまちまちだし、手漕ぎもいる。てんでバラバラのボートでスピードを競うのだ。もう無茶というか、笑ってしまう。しかも本気の仮装をして、本気で島をぐるぐると回っているのだ。手漕ぎの人たちも。

今年のメダルはケーキの下に敷くような金色と銀色のレースペーパーで作った手作り。一人の誕生会も兼ねていたのだけれど、突然のことで恐縮する私に「いいえ、急なお客さんはおもいがけない幸せを連れてきてくれるものなの」といって歓迎してくれる。初めて会う人のお誕生日ケーキをいただきながら、一緒にクイズの答えを考えたりした。型破りで無茶ぶりが笑っちゃう人たちでありながら、この優しさ。もう、大好きだ。

トーベ・ヤンソンがペッリンゲで年に一度、島の子どもたちにムーミンを朗読していたところ。このベンチにはパートナーのトゥーリッキ・ピエティラと作ったムーミンの立体作品が無造作に並べられていたという。

森下圭子