(223)ムーミン朗読マラソン【フィンランドムーミン便り】
-10℃以下の日が続き氷が十分に厚くなると、人々は凍った海の上を行き来するように。そうして辿りついたトーベ・ヤンソンの夏の島、クルーヴハル。
1月30日(金)から2月1日(日)、フィンランドの公共放送局YLEが「ムーミン朗読マラソン」を放送した。これはYLE開局100年の記念事業のひとつとして行われたもので、ムーミンの小説全作品を各界著名人が次々と朗読していくという。蓋を開けてみたら、それは生放送で、大統領が朗読したと思えば、詩人、俳優やミュージシャン、政治家、趣味で芝居をやっている人、インフルエンサー、文化人、スポーツ選手、プロデューサー、さまざまな人が登場した。
朗読は『小さなトロールと大きな洪水』から始まり、書かれた順に朗読が進むのかと思いきや、最後に読まれたのは『ムーミン谷の十一月』ではなく、短篇からなる『ムーミン谷の仲間たち』。しかも最後に読まれた一篇は「目に見えない子」だった。皮肉屋のおばさんに育てられて萎縮するうち、すっかり姿が見えなくなってしまったニンニが自分の姿そして顔を取り戻すまでの物語だ。
今いちばん伝えたいことを考慮した順番なのかもしれない。そう感じるのは、誰がどの部分を読むかまで熟考されていることも伝わってきたから。スタートはトーベ・ヤンソンの姪のソフィア・ヤンソン。そこから生前録音してあったトーベ・ヤンソンの朗読、大統領と続き、『小さなトロールと大きな洪水』は原語のスウェーデン語で朗読された(トーベ・ヤンソンはスウェーデン語を母語とするスウェーデン語系フィンランド人)。2作目からはフィンランド語で。トフスランとビフスランの登場時にはトフスランとビフスランがぴったりな二人が読み上げたり、モランが登場するところは「モラン」の愛称で親しまれるアイスホッケー界の人気者が担当。サンナ・マリン前首相は掃除が大好きと告白していたからかフィリフヨンカがムーミンやしきを大掃除する場面が当たった。ニンニの物語は、朗読マラソン期間に何度となく登場して朗読してくれたアルマ・ポウスティが担当した。彼女は映画『トーベ』で一躍有名になった俳優でもある。
ムーミン朗読マラソンはネットでも視聴でき、チャットに参加しながらという楽しさもあった。ときどき朗読を終えた人がチャットに参加してくれて、視聴者たちは次々にお礼を伝えたり質問したり、はたまたチャットに参加している者同士で「どこから視聴してる?」とか、好きなキャラクターを伝え合ったりする場面もあった。
朗読の途中で笑いのツボにはまってしまい、読もうとしても同じ箇所で笑って読めなくなった人が隣にいる娘に助けてもらう場面、モランと読むところを間違えて自分の名前「マルコ」と読んでしまったアイスホッケー界のモランことマルコ、もちろん読み間違えて直す人は何人もいたし、朗読する番を待ちながら他の人の朗読に思わず涙を流した人もいた。そして番組は時間通りには終わることはなく、いつも長引いた。
それでもチャットのコメントは優しかった。スタジオに漂うムーミン愛や番組を実現するためにここまでやってきた人たちの情熱がこちらにまで伝わってきたからじゃないかと思う。週末はいろいろと用事があって私が見たのは時々だったけれど、それでも中途半端なところでテレビを見てもすっとその世界に入れたし、チャットに行けば当たり前のように仲間に入れてもらえる心地よさがあった。
朗読した人は123人。最終的にテレビの視聴者は170万人と報じられた(フィンパネル調べ)。人口550万の国でこの数字。チャットのメッセージは3日間で25000件。朗読する人たちの様子にも伺えたけれど、「ムーミン」は好きとか国民的人気という表現では足りない、フィンランドにおけるムーミンの「凄み」のようなものを感じた週末でした。
ムーミン朗読マラソンの視聴はこちらから。
フィンランドの人たちの暮らしに欠かせない毛糸の靴下。友人が、旅がさらに楽しくなるようにと編んでくれたスナフキンの靴下。
森下圭子

