(166)手作りの夏まつり

フィンランド土産にもなるインスタントのオートミール。150㏄のお湯を加えてかき混ぜ、待つこと一分。ジャムや冷凍しておいたベリーを乗せてもいいし、お湯の代わりにホットミルクで作ってもいい。

ヘルシンキ中央駅のそばには手頃なお土産を探すのにぴったりのスーパーがある。海外からの旅行者を意識した品揃えなのだ。自由に旅ができなくなって一年以上。先日スーパーに寄ったら、ちょっと高価なムーミンチョコが半額になっていた。旅行者不在のまま一年が過ぎ、ついに賞味期限が来てしまったのだ。

この一年、秋に映画『トーベ』の公開に合わせて予定されていたムーミン美術館とのコラボは実現されなかったし、6月、『ムーミン谷の夏まつり』の水上劇場を模したステージをトーロ湾につくって行う夏至祭イベントも中止だった。今年に延期されることはなかったものの、ムーミン美術館では常設の展示作品の入れ替えがあり、ヘルシンキの夏至祭も形を変えて今年実現されることになった。

ムーミン美術館に展示されるトーベ・ヤンソンの原画は書籍のための絵で、紙にペンで描いたものがほとんど。色を付けたものも水彩が多い。これらは光を当て続けると、色が褪せたり作品が痛んでしまう。そのため定期的に絵を休ませる必要があるのだそうだ。そんな訳でムーミン美術館は常設の作品を入れ替え、今月からテーマは変わらないものの、作品解説も新たに展示がはじまった。

『ムーミン谷の夏まつり』の水上劇場はないものの、ムーミン谷の世界をベースにして、ヘルシンキのヘスペリア公園を自分たちで飾り付けようという話が進んでいる。夏至祭にちなみ6月24日から10日間ほど、地域の人たちと一緒にリサイクル素材を使ったりしてムーミン谷の世界を一緒に作ろうというのだ。

とはいえ、それ以上の詳細は何も発表されないまま。行き当たりばったりになるのかもしれない。でも、てんやわんやはムーミンのお話にはつきもの。てんやわんやに巻き込まれながらも、最後はケーキやご馳走でお祝いし、皆がなんとなく幸せになっている感じ。

「でも、もし〇〇しちゃったら」という負の想定をあまりせず、「やってみよう!」から始めてみて、それなりにその場で工夫しながら、皆がなんとなく幸せでいられる時間を迎える。そういえば私はフィンランドに来てこういう経験をよくしている気がする。

私たちには成功したいとき、勝たなくちゃならないとき、完璧にできなくちゃ自分の気が済まないこと、絶対と思うことがそれぞれにあると思う。でも、同時に「良く分からないけれどやってみようか」という場面に身を置いて、工夫しながら楽しむ場面があり、なんとなくの幸せを感じる時間を他の人たちと共有するとき、意外と自分や他者の素の部分や本質に出会える瞬間があるなと思う。『ムーミン谷の十一月』をはじめムーミンの物語には、そんな場面があちこちで見受けられるように思う。夏至祭まであと一か月ほど。ムーミン谷を謳う、詳細知らずの夏至祭が今から楽しみだ。

こちらは洋ナシとローズヒップのピューレ。8か月以降の離乳食ではあるものの、ダンサーなど体型維持が気になる人たちにも人気。

森下圭子