(159)映画『TOVE(トーベ)』の公開

映画『トーベ』は全国120館で公開。人口550万人のフィンランドでは驚異の上映館数。

10月2日、フィンランドではトーベ・ヤンソンを題材にした映画『トーベ』が公開された。フィンランド映画史上二番目に高い制作費で話題になった映画が、蓋を開けてみたらどうなるか。メディアの関心は観客動員数にも集まっていたけれど、2週連続で2位。予想以上のスタートを切った。

トーベ・ヤンソンの人生が映画になると聞いて、多くの人たちは不安だった。彼女の一生のどこを取り上げるのか、人気なのはムーミンであってトーベで人は集まるのか、ムーミンへの思い入れが強い人も多いのに大丈夫か。私も少し不安ではあったけれど、最初にトーベの映画化が伝えられたときに発表された脚本家の名前を見て、俄然楽しみになった。エーヴァ・プトロ、2016年の2月に小劇場でトーベ・ヤンソンを扱った舞台に立っていた女優の一人だ。トーベ・ヤンソンに向き合い、自分の人生と照らし合わせたり、舞台の身体経験としてムーミンのキャラクターたちにもなった人が脚本を書く。

とはいえ、やがて「フィクションらしい」という話が漏れ伝わり、ざわざわすることが増えてきた。映画の内容が少しずつ明らかになるたび、私も含めて「え、そこまでやっていいの?トーベ・ヤンソンの名を借りたフィクション?」というような不安が生まれた。同時に映画業界では海外での評価が高いという情報もはいり、なんかもう私たちは不安になったり浮かれてみたり、ファンとしては見る前からいろいろと忙しかった。

いよいよ公開。フィンランドの映画評は絶賛するものばかり。辛口で知られる映画評論家までが絶賛している。そして映画館で見る私たちもまた、拍手を送った。フィクション部分は気にならないという人、あれが最善だったのかもしれないという人など、好意的に受け取る声が続いた。

ムーミンに関わる人たち、研究者、何らかのかたちでムーミンと接する機会の多い人たちも「好きだ」と口を揃えていった。私も、とにかく誰かと話したくてたまらなくなり、そして公開から2週間のうちに人を誘って2回観てしまった。実はすぐにもう一度見たかったのだけれど、チケットがとれなくなって2週間目に2度目が叶ったのだ。

それほどムーミンに関心がなかった人たち、ムーミンに接する機会があまりなかった世代の人たちも映画館には大勢いる。「美しい」、「愛の物語だね」という声、心に残った言葉を伝え合う観客たち。映画が終わると、あちこちから人の声がする。私もまた映画のあと友人と久しぶりにゆっくり話をし、最近見たという友人たちとも近いうちに映画の話をしようね!と約束しあう毎日だ。

ヘルシンキでもそろそろ冬ごもりの準備をしようかというこの頃。灰色の冬毛になったリスがトーベ・ヤンソンの墓前に現れて。

森下圭子