(153)町の様子は変わりながらも

『ムーミン谷の彗星』にでてきた彗星の挿し絵のような空。友達とも会わずに一人で散歩する毎日(フィンランドでは自然の中など外の散歩は適度な運動として推奨されている)。空を見上げることが増えた。

日本ではトーベ・ヤンソンの誕生日をムーミンの日としお祝いしているけれど、フィンランドでは突発的にどこかでなにかがある程度。3年前だったか、国会の委員会の中でトーベ・ヤンソンの誕生日を旗日にしてはどうかという話が出はじめ、そして今年、8月9日に国旗を掲げることが承認された。内務省はフェイスブックでそのお知らせをする際に、トーベ・ヤンソンの『太陽の街』の一文を引用した。3月6日。まだ世の中は賑やかに動いていた頃だ。

「たいてい物事っていうのは、あるべきところに収まるものなの。しっかり待っていられたら」という言葉は、今は違った重みで響いてくる。3月6日当時は、引用を読みながら「町のあちこちでトーベ・ヤンソンの誕生日に旗があがるようになったら、そのうち旗日として暦に記載されるようになる。待とう、時が来たらそうなるんだから」なんてことを考えていたのに。

3月のエンマ・クリンゲンベリのコンサートに続き、4月に予定されていた語りと対話とダンスと音楽を融合させたパフォーマンス『さびしがりやのクニット』も中止となった。5月に始まる国立博物館でのムーミン特別展は?、LUCKANで予定されてる『私たちの中のトーベ・ヤンソン展』は?、6月の夏至祭に開催される野外の水上ステージを使った夏まつりはどうなるか。あるものは延期に、あるものは中止の決定がでた。エンマのコンサートとクニットのステージは秋に延期、国立博物館の展示は5月でなく8月に始まり、予定よりも長く2月末まで開催されることになった。いちおう今のところは映画『トーベ』と関連イベントについては、予定通り行われることになっている。夏にオープンするムーミンワールドについては、今のところ6月6日~8月23日の予定にはなっている。

大丈夫、きっとうまくいく、その時はきっとくる。そんなことを自分に言い聞かせている。トーベ・ヤンソンが子どものころ、自分の作品が不採用になるたびに日記の中で自分に言い聞かせていたことを思い出す。自分のためにノートを開いてペンを取るなんてことを久しくしていなかったけれど、そんなこともいいかもしれない。いえいえ『彫刻家の娘』にでてくるような、溢れるほどの想像の中で町を歩いたり自然と触れ合ったりするのもいいと思う(フィンランドでは森など外で散歩をし適度な運動を行うことが推奨されている)。フィンランドのメディアは、ときどきトーベ・ヤンソンのことやムーミンの話を話題にする。とくにこのご時世に『ムーミン谷の彗星』が取り上げられることが多くなった。街は静かだし、人は協力的に生きているけれど、でもトーベ・ヤンソンやムーミンの物語からヒントをつかもうとしたりしている。私たちはあがいてるのだ。

国立博物館の『勇気、自由、愛!ムーミンの75年』展は8月14日~2021年2月28日まで。ビジュアルは遊び心たっぷりのインスタレーションなどで知られるアーティスト、アレキサンダー・ライヒシュタインが担当する。

https://www.kansallismuseo.fi/en/exhibitions/rohkeus-rakkaus-vapaus-muumit-75

この時期の恒例といえばムーミンのチョコエッグ。毎年ここで出てきたフィギュアでストーリーを作り、友達と写真を送り合うのが自分たちの習わしになってきた。

森下圭子