(149)ムーミンの歌、愛の歌

トーベの夏の島クルーヴハルからの眺め。時おり空と海の境すらなくなってしまう。そういえばエンマは「海は無限だから」と語っていた。

「ムーミンを読んでいて、作者は歌を書いていると確信めいたものはあったんです」と話してくれたエンマ。作者のトーベ自身は無意識だろうけれど、文章にはリズムがあって読みやすいという。今年、飯能にオープンしたムーミンバレーパークでは、エンマが歌う「秋のしらべ」を聴くことができる。ムーミンとは直接関係のある歌ではないけれど、トーベ・ヤンソンが手がけた歌詞のなかで最も知られ最も愛されている歌。トーベが作った歌詞の歌だけでコンサートをやってみたい、エンマがそう考えたのは2018年春のこと。ところが準備するのに一年半を費やした。

トーベ・ヤンソンの歌詞はまとまった記録が保管されているかと思いきや、情報は錯綜していた。トーベが歌詞を書いていたのは、たとえば舞台のために書き下ろしたのを知っていたので事実だ。ところが歌を集めようとすると、それがままならない。エンマの歌を聴いたトーベの姪ソフィア・ヤンソンやムーミン・キャラクターズ社の協力のもと、エンマは作詞家としてのトーベ・ヤンソンの足跡を辿り、彼女の音楽の世界と向き合うことになった。

トーベは子どもの頃から歌詞を書いていて、自分で作った本の中にも載せていた。『レビューと歌』と題した分厚いノートにはもちろん、手紙の中にも歌詞は書かれていた。ムーミンの歌も多く、キャラクターの歌なんかもあって、それはムーミン本のシリーズが終わってからも、歌詞が何度か修正されている形跡もあった。

歌は愛の歌が多く、そしてムーミンや自然を題材にした歌も目立った。フィンランドの歌の世界には、自然を歌いながら自分の気持ちを伝えるものが多いけれど、トーベが手がける自然の歌はトーベそのものが描かれていると思ったとエンマは言う。何度でも修正したり、個人的な手紙の中にまで登場する歌の世界。トーベは歌詞を書くことを楽しんでいたのだと思うとエンマは付け加えた。

歌を読み込むうちに、いろんなことが気になりだし、エンマはトーベにまつわる人たちに連絡をとったり会ったり、様々なところへ調べにでかけたり、とにかく時間をかけて歌詞から見えてくるトーベ・ヤンソンを追い続けたのだ。

2020年はムーミンの本が誕生して75年の記念年。2月の終わり、エンマはトーベが手がけた歌詞の世界を歌にして届けてくれる。すでに曲のついているお馴染みの歌もあれば、新たに曲をつけて初めて紹介される歌もある。トーベ・ヤンソンの膨大な仕事の中でもあまり知られてこなかった作詞家としての一面が、いよいよ大きく紹介される。

トーベ・ヤンソンの歌詞を歌うコンサートのチケット情報(ネットで購入できます)

https://www.lippu.fi/en/artist/svenska-teatern-i-helsingfors/tove-jansson-visdiktaren-2601276/#calendar-start=2020-02

エンマ(エンマ・クリンゲンベリ)のHP

https://emmaklingenberg.com/tove-jansson-jp/

クルーヴハル島の石。エンマの歌探しは、島の石を一つひとつ丁寧に裏返していくような作業だった。

森下圭子