(1)勢いだけでムーミンショップに登場

 
フィンランドの冬は動きがモゾモゾしてしまう。なんだか眠くてやる気もなくて、寒い街でふと空を見上げても、のっぺりした厚い雲が広がるばかり。

そんな時にいきなり電話がかかってきた。ムーミンキャラクターズの社長からだ。ムーミン社長は冬も元気で、それはそれはムーミン谷の冬景色をラッパを吹きながらスキーでとばしてくるヘムレンさんのようだ。

「今トーベ(・ヤンソン)のアトリエのペンキ塗りしてるんだよ!」…声だけでなく、やる気もそうとうなものらしい。壁を塗り直しながら電話っていうのは暇つぶしなのかと思いきや、実は折り入って頼みがあるという。「ムーミンショップの人手が足りないんだ。ちょっと手伝ってくれないか?」ということだった。私にできるのか。しかし相手はムーミンだ。ムーミンのためにフィンランドまでやってきてしまった私が断れる訳がないではないか。何も考えずに「もちろん」と言ってしまったけれども。ペンキ塗りの方が私にはあっている気がする…おまけに冬だ。

あっさりと、いろんなことが決まってしまって、そうして私は電話を受けたその週のうちにムーミンショップの店番をしていた。それも一人で。店長のサンナと一緒にお店に立ってたのは3時間。見習い3時間。「もう大丈夫よ!」と言われ、放り出されるかのように店に一人立ってしまっていた。

折り鶴の尾がピンと尖らない、そんな手先でプレゼントのラッピングができるのか? ムーミンショップには一体どんな人たちがやってくるのか? 不思議な人が登場したらどうすればよいのか? …めぐるめく不安もありつつ、もう勢いだけで始まってしまいました。

とりあえず本業を優先させていただくことにしたので、それほど頻繁に出没している訳ではないけれども、それでも2年程が過ぎ、顔馴染みのお客さんができたり、日本人でムーミン・ショップにいるということはムーミンファンに違いない! ということか、ひたすらムーミンを熱く語られたり。かと思えば、子供たちがキャラクターの名前をすらすら言う傍らで、スニフに向かって「このスナフキンは…」という大人を目の当たりにしてしまったりまで。

そんなわけで、これからフィンランドのムーミンにまつわる人間模様をお伝えしていきます。唐突ですが。

どうぞよろしく。

時は12月。ムーミンがうまれたサンタの国はクリスマスの準備で大忙し。ムーミンショップも大忙し。小さなお子さん連れのお母さんには「見つからないように包んでね」と言われ、ものすごくこそこそと猛スピードでクリスマス包装したりね。目配せで合図を送りながら、ちょっとばかり大人の秘密のようにクリスマス準備を楽しんでいる。サンタクロース、後は頼んだ。夫よ、昨年はクリスマス商戦でショップに専念のあまり、しっちゃかめっちゃかでごめんなさい。ムーミンパパの靴下でお茶を濁してしまった昨年のクリスマスプレゼント。今年はグレードアップさせてもらいます。スティンキーのパジャマかな。

森下圭子

ヘルシンキのムーミンショップ
久々にムーミンショップに出向いたら、こんな新商品が。