(19)読書の夏

フィンランドの学校はすでに夏休み。高校生や大学生はすぐさま夏のアルバイトを開始しているみたいだ。市場や海辺のアイス屋さんには初々しい新人さんたちがあちこちにいて、緑が眩しいこの季節にぴったり。詩をたしなむ人の多いフィンランドでは、「ハイク」を知る人も多いのだけれども、このあたり季語になりそうではないか。

夏休みのはじまりの図書館は、いつも以上に賑わっている。そして森の小屋で夏休みをずっと過ごす予定の子供たちは抱えきれない数の本を借りていく。日が暮れない白夜の夏の日々…自分のペースで本を読み進めていくゆったりとした時間。子供たちは時に自分で、夜はお父さんやお母さん、はたまたおじいちゃんおばあちゃんに枕元で本を読んでもらい眠りにつく。

ムーミンの本は図書館で借りるというより、家にあって代々読み継がれている感じだ。大切なムーミンは古本屋さんに出ることもあまりない。そして古いムーミン本は一種の、特にムーミン好きの私に対しては自慢の一冊になるらしい。お呼ばれした先のムーミン本を今までいったいどれだけ披露されたことか。

先日「また」、私の目の前に古いムーミンが差し出された。うわっ、初版。もうそれだけで興奮してしまったのだけれども、ページをめくって衝撃の一撃…ぬりえ化している。確かに童話のムーミンシリーズは白黒の挿絵である。でも、ぬりえ状態になっているのは初めて目にした。面白いことに、シリーズが進むにつれて色づかいがどんどん上達していて、最後は見事にキャラクターにあった服の色、場面にあったトーンになっているではないか。

子供の頃に読書とセットでぬりえまで楽しんだ少女が大人になり娘が生まれ…そして自分がいろんな意味で親しんだ懐かしいムーミンを読み聞かせた日々。やがて娘は大きくなり、今では立派な大学生になっている。そんな大学生の娘さんはムーミンの思い出に「強烈な配色」が一番記憶に残っているという。ストーリーも何故か色といっしょに覚えてるのよ、という娘に母は恥ずかしくて真っ赤になって笑ってごまかしていたけれど、なんだかいい光景だった。

森下圭子

いくつもの缶バッジでかばんを飾るのが若者たちの間で人気のようだ。ムーミンショップでも人気の商品になってます。
ショールームからポケットにも入るサイズのメモ帳が。森歩きしながらスケッチしたり小さな野花をはさんだりするのに便利そう。森をテーマにしたワークブックは森で過ごす夏休みにもぴったり。