(132)トーベ・ヤンソンの夏の島

カモメに人気のクルーヴハルも、天気の良い一般公開の日は人の数が上回る

トーベ・ヤンソンが幼少の頃から夏を過ごした群島地域ペッリンゲ。ムーミンの挿絵にはペッリンゲの風景がたくさん描かれている。

子供の頃から慣れ親しんだペッリンゲは、やがてムーミンを創作する場所にもなる。ムーミンの物語が次々と誕生したのはブレッドシャール島に暮らしていた時代のこと。「バラの風の家」という名の夏小屋を自分たちで建て、トーベは一番下の弟と暮らした。

ムーミンシリーズのおしまいの方は、沖にポツンとある岩がちな島クルーヴハルで書かれた。ここでは主にムーミン以降の小説、ムーミン美術館に展示されている立体模型の制作、さらに日本で手にいれた8ミリカメラを使って撮影したりフィルムの編集作業などが行われていた。

わざわざ沖に出た理由は、しっかりと自分の時間を確保するためだった。次から次へと人が来られる場所だと、自分の創作にも集中できない。クルーヴハル島で、鳥たちと、海と風と、周辺に点在する岩や島に囲まれて、日々を楽しみ創作に明け暮れた。

この島は、現在、一週間だけ一般公開になる。ところが、自分の時間を大切にしたかったトーベの島らしいというか、一般公開されても思うように島に上陸できないことが多いのだ。この何年もの間、風の強さに、波の高さに、島を目前にしながら上陸せずに引き返さなくてはならなかったボートがどれだけ多かったか。

この夏はじめて、毎日難なく島に上陸できる一般公開の一週間となった。するとどうだろう、あちこちから次々と自分たちのボートや地元の漁師さんの船で人がやってくるではないか。人が簡単には来れないところにある島、なのにだ。島を占領しているかに見えるかもめの数がかすむくらい、大勢の人で島が賑わった。

東西南北に窓があり(一日のどの時間でも日光が差し込む)、一部屋しかないけれど機能的に作られた構造に、「夏の暮らしのありかたとして完璧だよね」と訪れるフィンランドの人たちが憧れる小屋。ムーミンも大好きだけれど、あらためてその作者とパートナーの暮らしぶりに感動し、作者にも興味がわいてくる。

この夏もムーミンはフィンランドの書店で売り上げの上位にくる人気ぶりだ。島を訪れた人たちも、あれからムーミンを読んだりしているのだろうなと思う。

森下圭子

小屋の中には当時の面影を残そうと、ベッドカバーなど新調する際も、できる限り元に近づける