(179)海辺に咲くバラ


フィンランドの海辺でよく見かけるハマナス

ムーミンやそのほかの小説、エッセイなど、トーベ・ヤンソンの書くものにはバラがしばしば登場する。なかには「あそこのバラだ」と場所が特定できるところもある。トーベがトゥーティと夏を過ごしたクルーヴハル島や、その前に弟と建てたブレッドシャール島の夏小屋の周りにもバラが咲いていた。

その中にはハマナスを指すバラもあった。『少女ソフィアの夏』では学名がでてくるため、ハマナスと分かる。それはトーベ自身が子どもの頃に夏を過ごしたグスタフションさんの家から、大好きだった洞窟へ向かう道なりに咲いていた。海へと続く砂浜は葦が茂って見えなくなってしまったものの、ハマナスは今も勢いよく咲いている。

トーベがトゥーティと夏を過ごしたクルーヴハル島にもハマナスが咲いていた。この島で唯一のバラでもあり、今も何年かに一度は大胆に剪定しないといけないくらい元気よく育っている。

私の中ではトーベ・ヤンソンを考えるときに欠かせないバラの一種なのだけれど、何年か前に「実は外来種」と聞いて驚いた。そして今年の6月1日からハマナスはこれ以上増やしてはいけない、減らして、最終的にはなくさねばならなくなった。

ハマナスに限らず、フィンランドでは繁殖力の強い外来種の草花を駆除せねばならない。たくましい外来種がどんどん広がると、本来育つべきフィンランドの草花が育たないからということなのだけれど、なかなか除去しきれないのも現実。トーベ・ヤンソンの作品の中にでてくるバラがひとつ、いつかはフィンランドの風景から消えてしまうということか。

ハマナスはフィンランドの海辺でよく見かける。他の花が育ちにくそうなところで大きな茂みを作り、花を咲かせる。バラのいい匂いをとっておきたくて、ハマナスの花びらでジュレを作る。日々の暮らしの中で見慣れた風景だった海辺のハマナス。それがなくなった様子を想像するのは難しい。でも、やがてそれがフィンランドの風景になるのだ。

湿地に咲くイソツツジの白い花はトーベ・ヤンソンのお気に入りだったという

森下圭子