【V】Visual Identity(ビジュアル・アイデンティテイ)

ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、
アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」

【V】「Visual Identity」(ビジュアル・アイデンティテイ)です。

 

今から5年ほど前、まだパークの計画をしていた頃、フィンランドのムーミンキャラクターズ社とのミーティングの中で、作者トーベの姪のソフィア・ヤンソンから

パークは、まずメインのビジュアル・アイデンティティ(たとえばロゴをベースにした)を策定し、それに付随して、すべての施設や機能のフォント、カラースキーム、サインなどを考えて欲しい。選択するアートワークは施設名やテーマに合ったものであり、一貫して同じものを使用してほしい。

ということを、ある遊園地を手がけた北欧のブランドエージェントのサイトなどを引用しながら説明がありました。

ビジュアル・アイデンティテイ(以下VI)というのは、広く一般的に使われているマーケティング用語で、視覚に訴えるデザイン要素を形にし、 それを統一的に発信・運用していくためのデザインシステムとして定められたものです。

VIがあることで、企業としてのブランドの価値やコンセプトを可視化でき、ブランドシンボルやブランドロゴなどを中心に、色やグラフィックなど、ブランドを象徴するデザイン要素の統一感が生まれます。また、自社が顧客に与えたい世界感を効果的に伝えられたり、競合社との差別化を図ることができます。

たとえば世界的なハンバーガーチェーンなど、インパクトのある企業のロゴマークがあり、店内や商品パッケージもそのトーンに合わせて統一されている、と言うとイメージが浮かぶのではないでしょうか。

ムーミンバレーパークというのは、ムーミンの世界観に基づいている場所なので、基本となるのはもちろん「ムーミン」の原作の要素、作者「トーベ」の思想やデザイン、トーベの生まれ故郷であり、パークに隣接している施設「メッツァビレッジ」の元となる「北欧」の価値観やデザインになります。

パークには、エリアが4つあること、また、施設の機能も大きく4つに分けられるので、それぞれのカラーやコンセプトをつくりました。

サインカラーは、各エリア・施設のイメージと「色の持つ意味」を照らし合わせて設定しています。それは、ムーミン作品に登場する色から抽出しており、北欧らしい明るくあたたかみのある色を選定して、ムーミンキャラクターズ社から正式に承認を受けたものです。

VIの色は、すべてムーミンの原作をベースに抽出されています。鮮やかな色がとても目を引きますね。

 

視覚の役割は大きく、色が持つ要素やイメージで印象が決まるため、その色の個性なども考えながら、エリアカラーは決められています。

また、ソフィアから、ムーミンバレーパーク含むメッツァのコンセプトが「自然の中でリラックスすること」に焦点をあてているので、「自然を愛するムーミンたち」をサブテーマとしていくつかのカテゴリーやVIにしてみるのはどうか、というアイディアをもらいました。そうして施設内の各機能は、「自然」というキーワードに基づいてさらに掘り下げていきました。

エリアカラー・機能カラーが決まったら、次は施設内のひとつひとつの建物に対して、挿絵のアートワークを選定し、そのアートワークがデザインの内装に紐づいていきます。

上の図は、エントランスのはじまりの入り江のものです。

メッツァビレッジがあり、ムーミンバレーパークがあり、それぞれのエリアがあり、機能があり、施設があり…と、すべてが枝葉に分かれて、密接に繋がっていることがわかりますね。

 

トーベの色彩へのこだわり

トーベの印象的な色、というのは、どのようにして生まれたのでしょうか?

トーベが手掛けたムーミンの原作本を見ると、新聞や小説など大量に印刷する白黒の挿絵をのぞき、絵本やテキスタイルなどのフルカラーでデザインされたものは、色鮮やかで、色の印象がとても強く残ることをムーミンファンのみなさんならよくご存じかと思います。

これらの色彩に対するこだわりというのは、若い頃からの長年の研究の賜物ということがわかる記載をいくつかご紹介させていただきます。

隣国スウェーデンのストックホルムでの留学時代、トーベにとって色は、非常に大切なものになり、それ以降も画家トーベ・ヤンソンに重要なものであり続けました。
日記やメモの中で、色の持つ意味、グラデーション、色の力についての考察が次々となされた。
「画家のパレットにある本当の色を見たい」と最終学期(1933年)の日記に詩的に綴っている。「素敵なオレンジ、淡い緑、そしてカーマインレッド」。


1946-47年頃のヘルシンキのアトリエでパレットを持つトーベ

 いつの時代も、トーベは色に魅せられていた。(略)
アテネウム在学中にも、「ああ、なんてたくさんの美しい名前」と感嘆符付きで色の名称をメモしている。「ナポリブルー、セラミックブルー、コバルトブルー、ウルトラマリン、マースバイオレット、こういう色を使おう!無味乾燥とは程遠い色を!」
 色と表現は素材であり、色を使うには緻密な計画が求められるのだ。
市庁舎地下の壁画を手がけた際も、取りかかる前にフレスコの技法を細かく研究し、色についてのメモを残している。そこには、「使い物にならない色」と「確実に使える色」が書き込まれていた。(略)
 評論家は、トーベが色で思考し、表現手段として色を最も大切にしたと指摘している。

(『トーベ・ヤンソン -仕事・愛・ムーミン-』より)

 

これらのトーベの言葉からも、色へのこだわりは、決して生まれもった才能だけではなく、色に魅せられながら、色による表現の可能性と調和を最大限追求してきたということが、垣間見えるかと思います。

パークでも、トーベの色に基づいたVIが、いたるところに散りばめられています。

たとえば、エントランスの「はじまりの入り江」エリア色のイエローは、スタッフのコスチュームに。

 

展示施設コケムスのエリア色パープルは、建物内の装飾の中に。

 

それぞれのエリア色は、園内の看板サインの矢羽根に。

 

色に対するたゆまぬトーベの努力が、ムーミンという1つの表現の形として後世にも残されたことで、海を越えた日本のムーミンを主題としたテーマパークがそれを引き継いでいる、ということ。

これは、次にみなさんがパークに訪れたときに、ちょっと違う目線で見ていただけるポイントではないでしょうか。

 

 

ムーミンバレーパーク

 

 

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株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)