(162)ムーミンの野外学校

フィンランド南部が吹雪になった日、このマグと雪景色の写真をSNSに投稿する人が続いた。ムーミンマグが人々の生活に根付いているんだと改めて感じた一日でもあった。

トーベ・ヤンソンはかつてムーミングッズが「使う人がひと手間かけて使う」ものであって欲しいと考えていたという。とくに子どもたちが自分の手を使って遊ぶことを願った。

そんなトーベ・ヤンソンの仕事のひとつに「ムーミンの野外学校」というのがある。1957年、トーベ・ヤンソンはフィンランドのアウトドア協会のために、冬仕様のムーミンをデザインしている。子どもたちのスキー教室のためにだった。

ムーミンのグッズが登場するようになったのは1950年代。スウェーデン語でのみ出版されていたムーミンが1952年の絵本『それからどうなるの?』で初めてフィンランド語とスウェーデン語で同時出版されフィンランドの人たちにもムーミンの存在が知られるようになり、さらにトーベ・ヤンソンは次々とムーミンを書き続けたムーミン黄金期とも呼ばれる時期である。1956年にはストックマン・デパートでムーミンの催事が開催。これに合わせるように手作り感あふれる人形や陶器のフィギュア、さらにキッチンクロス、テキスタイル、シール、ピンバッチ、おえかき帳、ぬりえ、カップ&ソーサ―が登場。お菓子のファッツェル社が最初にムーミンのパッケージを使ったのもこの頃だ。多くはやがて製造を中止してしまい、最初のムーミンのブームは落ち着いていくのだけれど、ムーミンのスキー教室はそのまま継続され、今に至っている。

アウトドアを通した活動を推奨するだけでなく、子どもたちや家族の野外活動をそれぞれのレベルに合わせた形で応援したいと考える協会にとって、ムーミンの物語は共通点が多かった。

かつては自分たちを森の民と呼んでいたフィンランドの人たち。ところが最近ではスキーだけでなく、大自然に囲まれた中でどうしていいのか分からない、森と言われても困るという人も増えてきている。そこで一年を通してさまざまな野外活動を学ぼうというムーミンをテーマにした野外学校を提供するようになった。

これらは一冊の本にもなっていて、例えば冬だと「雪と氷のほかに、冬を表すものは何?」とか、「雪の上に見つけた足跡を紙に描いてみよう」、「ムーミン以外に冬に眠る生き物は?」などいくつもの質問があり、一緒に考えたり話し合ったりする。四季折々の特徴を野外活動、運動、植物、動物、自然現象と、項目ごとにムーミンたちと学ぶ作りになっている。

公共の施設の閉鎖など行動制限の続くヘルシンキだけれど、外や自然の中を散歩することは今も推奨されている。この一冊に助けてもらいながら、冬の新しい顔をいくつか見つけられたらいいなと思う。

フィンランドのアウトドア協会が手がけたムーミントロールのアウトドア本。左上のムーミンの絵はトーベ・ヤンソンが協会のためにデザインしたもの。

森下圭子