『ムーミン谷の彗星』のすべて【本国サイトのブログから】

 

ムーミン小説の第二作目である『ムーミン谷の彗星』は、一作目の『小さなトロールと大きな洪水』に続き、今度はムーミン谷の存続を脅かす彗星がやってくるという、ドラマチックな展開の物語です。ムーミン谷で愛されているたくさんのキャラクターが、この作品で初めて登場しますよ!
今回はこの『ムーミン谷の彗星』を深堀りした記事を、2回に渡ってご紹介します。とても長い記事なので(でも面白いですよ!)、以下に目次と、各見出しへのリンクを掲載します。※記事はネタバレを含みますのでご注意くださいね。

目次
『ムーミン谷の彗星』を他のムーミン作品を比較してみると?
何度も改訂された『ムーミン谷の彗星』
『ムーミン谷の彗星』のあらすじ(トーベ自身が書いた、初版のためのあらすじも紹介します!)
『ムーミン谷の彗星』に登場する主なキャラクター 
『ムーミン谷の彗星』の主な舞台

『ムーミン谷の彗星』は、スリルに満ちた冒険にあふれた一冊です。それは、ムーミン谷を滅ぼしてしまいかねない、彗星による危機を巡る物語。ムーミン谷の住人たちはこの大厄災に、それぞれ彼ららしい反応を示します。この破滅の運命に打ちひしがれる者もいれば、宇宙の広がりについて哲学的な議論を交わす者もいます。また、彗星が衝突する正確な時刻を計算しようと集中する者もいれば、まだ時間があるうちに人生を楽しみ、ダンスをしたり、ケーキを焼いたりしたい者もいます。実にムーミンたちらしく、存亡の危機に瀕してはいるものの、物語はユーモアと楽しい冒険に満ちているのです。
 『ムーミン谷の彗星』で、トーベ・ヤンソンは、独自の語り口と他に類を見ない文体を持つ、唯一無二の物語作家として広く知られるようになりました。この小説には、ムーミン谷の多くのキャラクターが初めて登場します。ムーミンの作品世界に入っていくのに、ぴったりの一冊なのです。

『ムーミン谷の彗星』(『Kometjakten』)は1946年に出版されました。初めて書かれたムーミンの物語ではありませんが、「本格的な」ムーミン小説の第一作だとみなされることもあります。1945年に出版された、最初のムーミンの物語『小さなトロールと大きな洪水』が、2012年まで英語に翻訳されなかったためです。

『ムーミン谷の彗星』を他のムーミン作品を比較してみると?

後期のムーミン作品のメランコリーな雰囲気と比べると、『ムーミン谷の彗星』は、差し迫った脅威が物語全体に影を落としているにもかかわらず、明るく躍動感のある冒険物語になっています。
ムーミン谷が舞台になるのは物語の冒頭と結末だけで、ほとんどのできごとはムーミンやしきから遠く離れた、おさびし山や干上がった海底などで繰り広げられます。

「その谷のこと、少し聞かせて」
スノークのおじょうさんがたのむと、ムーミントロールが話しはじめました。
「だれでも、すっかり安心していられる谷なんだよ、あそこは。目をさますときはうれしいし、夜寝るのもたのしいのさ」

何度も改訂された『ムーミン谷の彗星』

『ムーミン谷の彗星』は、1946年にスウェーデン語で『Kometjakten(彗星追跡)』として出版され、その後、1956年に『Mumintrollet på kometjakt(彗星を追うムーミントロール)』、1968年に『Kometen kommer(『ムーミン谷の彗星』※日本語版ではこの版が基になっています)と改訂を重ねました。
トーベ・ヤンソンは版を重ねる際に、物語と挿絵の両方を改訂しています。物語を簡潔にし、いくつかの場面やセリフをカットしました。登場人物の一部(例えば、キヌザルは子ネコに変えられました)を描き直し、動物や植物など、多くの細かい部分にも変更を加えています。
1946年の初版の『Kometjakten』は、挿絵が水彩で描かれているのが特徴的です。一方、1956年の第二版『Mumintrollet på kometjakt』では挿絵はインクで描かれました。

『ムーミン谷の彗星』の英語版は1951年に出版されました。英語版は長らくこの版が出版されていて、1968年の改訂版が英訳されたのは、昨年2025年のことです。1951年の英語版は、1968年に改訂されたスウェーデン語版『Kometen kommer』を基としている、他の各国語版とは異なっています。

各国語版については、また別の記事で詳しくご紹介する予定です。

『ムーミン谷の彗星』のあらすじ

以下の文章は、トーベ・ヤンソン自身が『ムーミン谷の彗星』の裏表紙に入れる草案として書いたものです。

「宇宙の彼方から、彗星が燃えさかりながら飛び立ちました。たった一人で、炎のしっぽを引いて。ムーミントロールがムーミンパパとムーミンママと暮らす谷へと、容赦なく近づいてきます。おさびし山の天文台では、彗星は10月7日の午後8時42分に地球に衝突すると予測されました。この本は、大災害の前の波乱に満ちた日々の物語です。ムーミントロール、小さな生きもののスニフ、スナフキン、二人のスノーク(兄と妹)、そしてヘムレンさんの頭上に広がる空は、ますます赤く染まっていきます。危険な旅路では、予想もできないことが起こります。子どもの頃そうだったように、それは恐ろしいできごとであると同時に、楽しいできごとでもあるのです。

中でも一番怖いのは、干上がった海底にいたタコや、ムーミントロールと食肉植物のアンゴスツーラとの闘いかもしれません。それとも、ガーネットを守っていたトカゲかも? 一番楽しいのは、真珠採りや、盛大なパーティーかもしれません。でも、本を読んで、その後どうなったのかは自分で考えてみてくださいね。」

これ以降の詳しいあらすじは、トーベ・ヤンソンの『ムーミン谷の彗星』の最後の改訂版(1968年のスウェーデン語版)に基づくものです。ネタバレを含みますので、ご注意くださいね!

物語は、スニフが暗い森の中の道を見つけるところから始まります。その道は海へと続いていました。泳ぐのが大好きなムーミントロールは波に飛び込み、スニフはそこで洞窟を見つけます。

ムーミンパパが作った新しい橋と激しい雨によって家が壊れてしまったじゃこうねずみが、新しい客人としてムーミンやしきにやって来ました。じゃこうねずみは宇宙の果てしなさと、やがて地球に降りかかる大災害について語り、みんなの気持ちをすっかり沈みこませてしまうのでした。

目を覚ますと、すべてが灰に覆われ、世界は灰色になっていました。ムーミントロールとスニフは怖くなり、何をする気も起こりません……。そこでムーミンパパとムーミンママは二人に、じゃこうねずみが言っていた天文台に行って、一体どんな状況なのかを調べてきてもらえないかと提案するのでした。

ムーミントロールとスニフはおさびし山を目指し、いかだに乗って川を下っていきます。すると黄色いテントが現れ、誰かがハーモニカを奏でる音が聞こえてきます。二人が初めてスナフキンに出会った瞬間でした。スナフキンは二人をガーネットがちりばめられた谷間に案内しますが、そこでスニフはあわや巨大なトカゲに襲われそうになってしまいました。

危機一髪のところで植物学者のヘムレンさんに川から救い出してもらった三人は、旅を続けます。スナフキンは二人に、旅の途中で出会ったスノークのおじょうさんとその兄のスノークについて語ります。スナフキンによると、スノークのおじょうさんは左の足に金の輪をはめているというのです。天文台に向かう途中、ムーミントロールはその金の足輪を見つけます。
三人はついに天文台にたどり着き、そこで学者から彗星が4日後にムーミン谷に衝突することを告げられます。ムーミントロールは家にたどり着きさえすれば、きっと大丈夫だ、と信じます。でも、まずはスノークのおじょうさんを見つけて、金の足輪を返してあげなければね!

次の日、三人はスノークのおじょうさんを見つけ、ムーミントロールは食肉植物のアンゴスツーラからスノークのおじょうさんを助け出します。ムーミン谷へ戻る途中、みんなで夜の野外ダンス会場に立ち寄りました。

朝になると、彗星はますます大きくなっていました。ひどく暑く、海はすっかりなくなってしまっていました。干上がった海底を竹馬で越えていく途中で、見つけたのは難破船です。ムーミントロールはそこにいた巨大なタコに襲われてしまいますが、スノークのおじょうさんは、彗星の光を鏡に反射させ、ムーミントロールを助けてくれました。次の日は、ムーミン谷から避難してきたたくさんの生きものたちに会いました。

ムーミントロールたちは、また別のヘムレンさんにも出会います。そしてそのヘムレンさんのドレスで気球を作り、竜巻を利用してムーミンママとムーミンパパの待つ、ムーミン谷へ飛んで帰ったのでした。さあいよいよその夜、彗星がやってきます。みんなはスニフの見つけた洞窟に避難しました。

そして翌朝――。

海が遠くに戻ってきています! みんな一緒に生き延びることができたのです。ムーミントロールたちは、すべてが無事かどうかを確かめるため、谷に向かったのでした。

『ムーミン谷の彗星』の主なキャラクター(登場順)

スニフ

スニフは、最初の作品『小さなトロールと大きな洪水』で、ムーミンママ、ムーミントロール、ムーミンパパとともに登場し、その後、ムーミンやしきで暮らすようになります。とてもこわがりで、何かにつけては不平をこぼしています。キラキラと光るものは何でも大好き。登場人物の中でももっとも小さくて臆病な性格のスニフは、自分よりも小さな子ネコのことを考えては、自分も必要とされたい、慕ってもらいたいと願っています。ムーミントロールと一緒に天文台へ旅に出ることを許されたとき、スニフは自分がとても大人になったような感じがしたのでした。

スニフの家系図についてはこちらをどうぞ。

ムーミントロール

ムーミントロールは『ムーミン谷の彗星』の主人公です。勇敢で心やさしく、みんなをムーミン谷の安全な場所へと導きます。そんなムーミントロールが一番頼りにしているのは、ムーミンママ。ムーミントロールはこの物語で初めてスナフキンとスノークのおじょうさんに出会い、どちらのことも大好きになりました。このモチーフは、その後の作品にも引き継がれていきます。

ムーミン一家について詳しくはこちらをどうぞ。

ムーミンママ

この物語では、ほとんどのできごとはムーミン谷以外の場所で起こりますが、ムーミンママはムーミンやしきに留まり、ムーミントロールたちの冒険の間、留守を守っています。ムーミンママはいつも穏やかでみんなを安心させてくれる、家族の揺るぎない中心です。ムーミントロールは「みんなどうすれば助かるか、きっとママなら知ってるよ」という確信に支えられ、彗星が衝突する前にムーミン谷に戻るよう急ぐのです。  

 

ムーミンパパ

ムーミンパパは落ち着いていて科学に関心がありますが、家族や他の者たちの気持ちには、ちょっと鈍感なところがあります。ムーミントロールとスニフを天文台に行かせるというのは、ムーミンパパのアイディアです。

 

じゃこうねずみ

じゃこうねずみはこの物語で初めて登場します。彼はムーミンやしきーー、正確には庭のハンモックに住み着きます。じゃこうねずみは哲学的で、悲観的な世界観を持ち主なので、破滅が迫ってきていることを話すのが、どれだけムーミントロールとスニフが怖がらせているのかに気づかないのです。哲学者たるもの、暖かいとか乾いているとかいう世俗的なことにはこだわるべきではないと考えているため、本人は認めたがらないのですが、実は快適であることをかなり大切にしています。サンドイッチを放り投げて宇宙について説明します。

 

ニョロニョロ

この物語では、淡い灰白色をしたニョロニョロが遠くをさまよっているのが、2回ほど見られるだけです。ニョロニョロたちはひたすら地平線に向かって進み続けることだけを目的としている、謎めいた生きものです。

 

スナフキン

スナフキンはこの物語で、初めてムーミン谷に登場します。できるだけものを持たないでいたいと思うさすらいの旅人で、なんでも持って帰らずに、頭の中にしまっておく方が好きなのです。スナフキンはみんなを励ますために音楽を奏でます。ムーミントロールはムーミン谷に戻ったとき、スナフキンを親友として紹介します。初版では、スナフキンの反骨精神がある一面も見て取れます。

スナフキンの家系図については、こちらをどうぞ。

 

スノークのおじょうさん

スノークのおじょうさんが初めて登場するのも、この『ムーミン谷の彗星』です。スナフキンがムーミントロールとスニフに彼女のことを話したことで、ムーミントロールは、まだ会う前からスノークのおじょうさんについて思い巡らせるようになったのでした。スノークのおじょうさんは、干上がった海底の難破船で、彗星の光を反射させて巨大なタコの目をくらまし、ムーミントロールを助け出します。楽しいことが好きで、ちょっと虚栄心が強いところも。ムーミン谷へ向かう途中、森の野外ダンスに行こうと言い出すのもスノークのおじょうさんです。

 

スノーク

スノークが登場するのもこの作品が初めてです。スノークはスノークのおじょうさんのお兄さんです。適切な会議を開いたり、計画を立てたりするのが大好きで、罫線や方眼の入ったノートを好みます。物語の終盤、ムーミンパパから洞窟への引っ越しのまとめ役を頼まれたときが、スノークが一番幸せを感じた瞬間でした。ちなみにトーベは、最初に描いたムーミンのような生きものを「スノーク」と呼んでいました。さあ、どこに描いたと思いますか? トーベが子どもの頃に夏を過ごしていた、ペッリンゲ群島地域の屋外トイレの壁になんですよ。

ムーミンママその他の登場人物たち

さまざまなヘムレンさんたち(切手収集家、植物学者)、天文台の学者たち、ムーミン谷で家から逃れてきた生きものたち、野外ダンスに集う森の生きものたち、売店のおばあさんなどがいます。

『ムーミン谷の彗星』の主な舞台

ムーミン谷 ― 小さな生きものたちが幸せに暮らす場所

「ムーミンたちの住んでる谷間は、とてもきれいなところです。そこには小さな生きものたちが、たくさんしあわせにくらしていて、大きな緑の木々がしげっていました。どこからともなく来た川は、野原のまん中を通り、青いムーミンやしきのそばでぐるっとカーブしてから、ほかの小さな生きものたちがいるどこかへ、また流れていくのでした」

浜辺 ― ムーミンたちは泳ぐのが大好き

「ムーミントロールは、太陽の光がさしこむ大波の中へ、もぐっていきました。はじめは、緑色のきらきらしたあわだけでしたが、やがて海草が森のようにしげって、砂地の上でゆれ動いているのが見えました。きれいに形がそろった海草たちには、内側がピンク色の白い貝が、かざりのようにくっついています。
さらにもぐっていくと、暗い水の中に黒い穴が開いていて、底なしの深さになっています。ムーミントロールは向きを変えて、波の上に浮かび上がり、波に乗って浜辺へもどりました」

ムーミンたちは犬かきで泳ぐのですが、その様子は次の物語『たのしいムーミン一家』で描かれていますよ。

スニフの洞窟 ― 一番安全な避難場所
スニフは子ネコを追いかけているうちに洞窟を見つけます。物語の最後、いよいよ彗星がやってくるとき、ムーミンたち全員がこの洞窟に避難します。
スノークのおじょうさんが提案します。

「のんびり決めてる場合じゃないわ。みんな大事なものをぜんぶ持って、どうくつへお引っ越しすればいいのよ」

ハンモック ― 壮大な思索を巡らせるのに最適な場所
ハンモックは、じゃこうねずみが深遠で陰気な思索にふける、お気に入りの場所です。

「わしのじゃまをするな。あっちへ行って、遊びなさい。遊べるうちに思いきりな。こういうことは、わしらにはどうにもならん。ならば、哲学的にとらえるまでじゃ」

スナフキンのテント ― さすらいの旅人に必要なものすべてがある場所
遠くから見ると黄色い三角形のように見えるテントは、スナフキンがこれまで経験してきた、さまざまな物語を語る場所でもあります。

「ぼくは、あっちでくらしたり、こっちでくらしたりさ。今日はちょうどここにいただけで、明日はまたどこかへ行く。テントでくらすって、いいものだぜ」

天文台 ― すぐれた観測が行われている場所

「ぎざぎざした峰のてっぺんに天文台があって、そこでは学者たちがすぐれた観測を何千もおこなっては、たばこを何千本もけむりにし、星だけを相手にしてくらしていました」

おさびし山 ― 太古からの巨人たち

「おさびし山はおごそかにそびえて、深い眠りに落ちていました。峰々は谷間の上でにらみあい、谷には凍りつくようにつめたい霧が立ちこめていました。重々しい山から、ときどき小さな雲のかたまりが流れだして、ゆっくり山腹をすべっていきました」

売店

「それも、とてもいい売店なのです。まわりには、ありとあらゆる花がきれいにならんで咲いていて、銀色の玉がついた台がありました」

森の中の野外ダンス場

「野外ダンス場は、小さなあき地にありました。ツチボタルを集めた光のリースでかざりつけられ、大きなバッタが一ぴき、森の片すみでバイオリンの調子をあわせていました」

干上がった海底

「ここには海があって、青くやわらかな波がおしよせ、沖にカモメが飛んでいるのが本当なのに、深い穴がぱっくりと口を開けているだけなのです。まわりには湯気が立っていて、底からはぶくぶくとあわが出ており、くさったようないやなにおいがします。足元には砂浜がつづいて、緑色のぬるぬるした崖へ下っていました。
『海がないわ。どうしてなくなっちゃったのかしら』
弱々しい声で、スノークのおじょうさんがいいました」

次回の記事では、この作品からわかるムーミン谷の豆知識や、『ムーミン谷の彗星』から生まれた舞台やコミックス、映画などについてもご紹介します!

翻訳/内山さつき