ムーミンたちの夏の楽しみ方 ――ムーミン谷の夏の名シーン【本国サイトのブログから】

ムーミン谷では、夏は庭で眠ったり、海辺で過ごしたり、大冒険の季節です。実はニョロニョロにとっても、夏は特別な時期なんですよ。この記事では、そのわけを知ることもできます。ムーミン小説のさわやかな夏の名シーンをお楽しみください!

ムーミンの最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』をはじめ、ムーミン小説のほとんどが、春から秋の季節を舞台に描かれています。冬の間、ムーミンたちは冬眠し、ぐっすり眠っていることを考えれば、それは当然のことですよね(ムーミントロールがうっかり冬眠から目を覚ましたときのことは、また別の物語です)。

「とちゅうで、ぐずぐずしないようにな。こわがらなくていいよ、六月の夜は、おそろしくないんだ」
スナフキン『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

 

ムーミンみたいに完璧な、夏の一日を過ごし方 ⛵

何か夏らしい、楽しいことがしたくなったなら、こちらをチェックしてみてください! ムーミン一家のお気に入りをいくつかご紹介しましょう。泳ぐこと、庭づくり、木の皮の船を作ることなどは、夏の季節にムーミンたちが楽しんでいることの一例です。
おっと、夏はニョロニョロを育てるのにも最適な時期だということを忘れるわけにはいきませんね! でも、夏至祭の前の夜に蒔いた種からしか育たないことも、覚えておかなければいけません。

「ママはいつでも、夏の最初にこしらえた木の皮の船をいちばん好きな人にあげるんだもの」
ムーミントロール『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

「長くてあたたかで、美しく、そしてものがなしい夏の夕方に、毎日ムーミンパパは同じことをくりかえしてきたのです」
『ムーミンパパ海へいく』1965年(小野寺百合子/訳、講談社より)

「六月の長い日もすぎていって、夕暮れになりました。
でも、やっぱり暑いままでした。
かわいた、燃えるような空気が、すすをいっぱいただよわせていました。そして、ムーミン一家のだれもが、元気なくだまりこくってふさいでいました。
すると、ムーミンママがいいことを思いついたのです。
『みんな、お庭で寝ることにしましょうよ』
こういってムーミンママは、あちこちの気持ちよさそうな場所に、めいめいの寝どこを用意しました。それから、だれもひとりぼっちのさびしい思いをしないようにと、どの寝どこのそばにも、小さいランプを置きました」
『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

「ムーミンママは両手で木の幹にさわってみました。すると、木は日の光であたたまっていて、いかにもライラックの花がさいているように感じられたのです」
『ムーミンパパ海へいく』1965年(小野寺百合子/訳、講談社より)

「ムーミントロールは、なまぬるい夏の水の中にすべりこんで、犬みたいに泳ぎだしました」
『たのしいムーミン一家』1948年(山室静/訳、講談社より)

ムーミン谷にも、夏に雨が降ることがあります。でも、それは残念なことではありません。むしろ、友だちや家族と、家の中で楽しい一日を過ごす絶好の機会なのです。たとえば、かくれんぼなんてするのはどうでしょう?

「夏の雨がムーミン谷にふりしきる、あたたかくて静かな日のことです。みんなは、家の中でかくれんぼをして遊ぶことにしました」
『たのしいムーミン一家』1948年(山室静/訳、講談社より)

夏といえば、友だちや家族との楽しいパーティーが欠かせませんよね。ムーミン谷では夏至に盛大なお祝いが催され、ケーキを食べる理由があれば(よくあるんです!)、小さなお祝いもしばしば開かれます。一年で最も日の長い夏至の日には、少し魔法めいた儀式が行われるんですよ。あなたは体験したことがありますか?

「ムーミン谷のわが家では、いつもこのころにパパのりんご酒がおいしくできあがったものでした。夏まつりのかがり火は、かならず海辺でたかれて、谷や森にいる小さなはい虫たちが、みんな見にやってきました。遠くの浜辺や島でもかがり火がたかれますが、ムーミン一家の火が、いちばん大きいのです。火の勢いがいちばんさかんになったとき、ムーミントロールは、あったかい水の中に入っていって、波に乗ってゆられながら、火をながめたものでした」
『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

 

「顔にあたる雨のしずくはあたたかく、ドレスはまるで帆のように、体のまわりでパタパタはためきました」🌈

トーベ・ヤンソンが描くムーミン谷の夏は、魔法のような雰囲気も加えられた、あたたかくすこやかな夏です。夜も明るく、花が咲き乱れ、のびやかに時間が流れる、北欧の夏を彷彿とさせる描写です。 

「そのうちに夏になりました。スナフキンがテントを張っていた川のわきの場所には、草がしげってきました。まるでだれも住んでいなかったみたいに、緑がこくなってしまいました」
『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

「顔にあたる雨のしずくはあたたかく、ドレスはまるで帆のように、体のまわりでパタパタはためきました」
『ムーミン谷の仲間たち』1962年(山室静/訳、講談社)より 

「みんな、外を見ました。すると、きらきら輝いている夏の海に、お日さまがのどかに沈んでいくところだったのです」
『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

「七月の末のことです。ムーミン谷は、とてもとても暑くなりました。
もうハエでさえも、ブンブンすることなく、木はぐったりと、ほこりっぽくなっていました。川の水もへって、しおれた野原を細々と茶色く流れているだけでした。これでは、あのぼうしでジュースを作ることもできません」
『たのしいムーミン一家』1948年(山室静/訳、講談社より)

「ムーミン谷は焼けつくような暑さで、なにもかもひっそりとして、しかも少しほこりっぽかったのです。八月というのは森が火事になるおそれがあり、おおいに気をつけなければなりません」
『ムーミンパパ海へいく』1965年(小野寺百合子/訳、講談社より)

「夏至の夜も、あっというまにすぎました。(中略)
花が咲いて、実がなりました」
『ムーミンパパの思い出』1950年(小野寺百合子/訳、講談社より)

「その年、初めて見たチョウが黄色なら、たのしいことでいっぱいの夏になるし、白いチョウなら、おだやかな夏になるといわれています。黒だの茶色だののチョウは、話になりません。そんなのはかなしすぎますよね」
『たのしいムーミン一家』1948年(山室静/訳、講談社より)

「お日さまは沈んでいましたが、六月ですから、それほど暗くはありません。夜でもほんのり明るくて、魔法のかかった夢のような世界です」
『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

 

ニョロニョロはいろいろな意味で謎めいた生きもので、彼らの夏の儀式は、同じ種族ではない者にとっては、理解しがたいものの一つです。ニョロニョロは6月にはなれ島で集会を開きますが、彼らは耳が聞こえず、話すこともできないため、何のために集まっているのかは誰にも分からないのです。

「太陽は沈みかけていましたが、あいかわらずあたたかかったので、まもなくニョロニョロが芽を出しはじめました」
『ムーミン谷の夏まつり』1954年(下村隆一/訳、講談社より)

 

夏が秋に変わるとき 🍁

夏の終わりの日々はどこか切ない気持ちになりますが、それは必ずしも悪いことではありません。多くの人にとって、秋は新たな始まりであり、新しい冒険が待っているのです。そして、いつもまた新しい夏が巡ってきます!

「花のかおりとミツバチのブンブンいう音でいっぱいな、気持ちのいい、あたたかな午後でした。庭は、夏のおわりの深くこい色につつまれ、美しい花束のようにまぶしく輝いていました」
『たのしいムーミン一家』1948年(山室静/訳、講談社より)

「もう八月のおわりでした。夜になるとフクロウがホーホーと鳴き、コウモリが大きな黒い群れとなって、音もなくはたはたと庭の上を飛びめぐる季節です。
森は、ツチボタルのかがり火であふれ、海はきげんがわるくなりました。期待とものがなしい空気がただよい、大きな月は燃えるように輝いています。
ムーミントロールは、こうした夏のおわりの時期が、なぜかいちばん好きでした」
『たのしいムーミン一家』1948年(山室静/訳、講談社より)

 

❗でも、気をつけて! 本当に夏が終わる前に、夏を終わらせないでくださいね❗

「それでは、おまえは夏をおわらせるんだね。ランプを灯すのは、夏がほんとうにすぎてからなんだぞ」
ムーミンパパ『ムーミンパパ海へいく』1965年(小野寺百合子/訳、講談社より)

 

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翻訳/内山さつき