(195)新しいムーミンスポット【フィンランドムーミン便り】

トーベ・ヤンソンの記念プレート

トーベ・ヤンソンがかつて通っていた店、お気に入りの店、思い出深い店などの手がかりは、今やトーベの手紙くらいの手がかりしかない。そして残念ながら、現存している店がヘルシンキにはほとんどない。そんな中、トーベが1940年代〜1950年代に友達への手紙で報告しているのがレストラン・レヘトヴァーラだ。実は意外な気がした。というのも、その店は、今や国会議員をよく見かけるレストランで、いつ見てもスーツ姿のきっちりした格好の人たちがテーブルを囲んでいるから。ただ、90年代の終わりだったろうか、ドイツのドレスデンからジャズドラマーがやってきた時に、往年のジャズマンたちがレヘトヴァーラに集まったのを覚えている。当時ヘルシンキの夜の街では花娘たちがレストランやバーを回ってバラを売り歩いていて、このレストランにも花娘はやってきて、そして男性が女性に一輪のバラをプレゼントしたりしていた。

トーベ・ヤンソンがこのレストランを訪れた頃は、フィンランドで女性が一人でレストランに行くことのできなかった時代だ。女友達どうしでも入店を断られたという。このレストランは現在ロシア領になっているカレリア地方ヴィープリに独立前の1916年に開店した。戦時中の1940年にヘルシンキに移転し、以降、同じ場所で今まで続いている。

今年、トーベ・ヤンソンの誕生日に『ムーミンとトーベ・ヤンソン』の著者がフィンランド語版の訳者でトーベと交友もあったユハニ・トルヴァネンと共に、トーベの足跡を追いながら、このレストランで食事をした。その時に、ここにトーベが通っていたことを記念するプレートがあったらいいのではという話になり、あっという間に実現したのだそう。

そこにはトーベの他にも何枚かのプレートが壁に飾られていた。トーベのお気に入りのテーブルは明らかではないものの、関係者たちで考えて、ここだろうと思われるテーブルの横の壁にプレートをつけた。そこには50年来の常連、80歳の誕生日記念、グループで20年にわたって通い続けるグループ、ヴィープリ時代から代々で贔屓にしている一族などのプレートが一緒に並んでいた。著名な芸術家たちの名前が並ぶところでなく、この場所が大好きな人たちの楽しそうなプレートの中にトーベのプレートがある。それが微笑ましかった。

このレストランではランチも提供している。ランチのビュッフェはフィンランドの人たちがクリスマスなどの特別な時、何かのお祝いの食卓で期待される料理が並んでいる。昼でも真っ白のクロスがテーブルにかけられ、ビュッフェのスターターに始まり、メイン、デザート・ビュッフェと続く。私が伺った日は、結婚記念日の夫婦がお祝いの乾杯をしながら、ゆっくりとランチを楽しんでいた。少しすると男性二人が「この店にムーミンのプレートがついたらしいんだよ」とキョロキョロしながらこちらにやってきた。

気分はカジュアルに、でも少しかしこまった服装でトーベ・ヤンソンにまつわるスポット、または特別なムーミンが見られるスポットとして行ってみてはいかがでしょうか。

【Restaurant Lehtovaara (レストラン・レヘトヴァーラ)】
所在地
Mechelininkatu 39, 00250 Helsinki FINLAND
サイト
https://www.lehtovaara.fi/en/


50年以上通っている常連も少なくないクラシックなレストラン

森下圭子