「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」――ムーミンが子どもたちに「気持ち」について教える教材に【本国サイトのブログから】

どうしたら誰かと仲良くなれる? ムーミントロールみたいに緊張しないかな? 友だちとケンカになったらどうしたらいい? どうして一人で遊ぶことが好きな子とそうでない子がいるの? 子どもたちはいろいろなことを考えます。そんな子どもたちの疑問に答えるために、フィンランドの赤十字社は、「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」という無料の教材を作成しました。

赤十字社には、これまでも多くの先生たちから、小さな子どもも感情についてのスキルや、友だち作りについて話し合うことを必要としているという声が届いていました。「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」は、こうしたニーズに応えるために作成されたものです。このプログラムは、赤十字が「MIELI メンタル・ヘルス・フィンランド」の協力を得て作成した、若い人向けのフレンドシップ・スキル・プログラムをベースにして作られています。

学校や幼稚園は、子どもがフレンドシップ・スキルを発達させるのをサポートするのに最適な場所です。「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」は、ムーミンのキャラクターたちがゲームやアニメーションを通して、子どもが人間関係のスキルを身につけられるよう働きかけるものです。

スナフキンのテントはリラックスできる場所

この教材では、テントの中のスナフキンのようにリラックスするにはどうしたらいいのかや、ムーミン屋敷のキッチンにいるかのように五感を使う方法、ムーミンパパのように集中するにはどうしたらいいか(伝記に取りかかるときには、まず雑念を消す必要がありますよね)などの、マインドフルネスの訓練が紹介されています。
この動画からは、おなじみのムーミンのキャラクターたちを通して、「一人でいること」にもいろいろなやり方があることが学べます。スナフキンは、アウトドアや釣りが大好きです。彼は一人でいることをとても心地よく感じ、時には長い時間一人でいることもあります。でも、誰もが一人でいることを選ぶわけではないのです。

2つ目の動画は、「良い友だちとは何か」考えるものです。友だちにはいろいろなタイプがあり、その友だちによってできることも違います。相手の意見に賛成しなくてもいいのです。ときには友だち同士で言い争うこともあるでしょうが、また仲直りすればいいのです。難しく感じることもがあったとしても、どんなふうに謝り、また許せばいいのかを知っておくのは大切なことです。

家庭で「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」を活用

「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」は、主に幼稚園や小学校の子どもたちとその先生を対象にしていますが、家庭で保護者が子どもと一緒に使うこともできます。たとえば、「セルフ・コンパッション(自分自身を大切にすること)」や「思いやり」、「セルフ・アウェアネス(自己認識)」などは、多くの保護者たちにとって、自分が子どもだったときにはあまり考える機会のなかったテーマでもあるので、きっと役に立つことでしょう。

この教材は、フィンランド語、スウェーデン語、英語で提供され、海外で広く注目されています。また、日本赤十字社が現在日本語に翻訳中です。

ムーミンママのハンドバッグの中身は何?

フィンランドのヘルシンキ・ミュッリュプロにあるモンテッソーリ幼稚園では、数ヶ月前からこのムーミンのフレンドシップ・スキルを取り入れています。トレーニングの成果は、ハグすることや素直に謝ることなど、具体的な行動となってすでにあらわれています。

イヤスとムーミンのぬいぐるみ。写真/Jenna Lehtonen

マットの上に輪になって座る子どもたちの手から手へ、黒いハンドバッグが渡されていきます。インストラクターで、幼児教育の先生でもあるイェンナ・トンペリ(36)は、音楽をかけ、トラ組の子どもたちに目を閉じるように指示します。その通りにする子もいれば、思わず目を開けてのぞいてしまう子も。小さな指がハンドバッグの底を探って、一人ひとり中身に触れていきます。

ムーミンママのバッグには、何が入っているのでしょう? やがてハンドバッグの中に隠れていたものが子どもたちに明かされます。
「何が入っていたか、誰か教えてくれる?」と、トンペリが問いかけます。
青いちょうちょ、鳥の羽根、花など、さまざまな答えが返ってきます。

写真/Jenna Lehtonen

ハンドバッグの中にある宝物を見つけることで、子どもたちは触覚を通して、「今、この瞬間」に集中することができるのです。楽しそうにはしゃぐ声から、この訓練が多くの子どもたちにとって魅力的なのが分かりますね。

トンペリはバッグに手を入れ、小さく軽いものを取り出します。
「羽根だ!」と子どもたちが声をそろえて叫びます。
トラ組の子どもたちが息を吹きかけると羽根は床に舞い、それが次のターンの合図となります。「ムーミンママのハンドバッグの中身」は、「ムーミンと学ぶフレンドシップ」の中のマインドフルネスのエクセサイズに欠かせないパートです。

生涯役立つ「フレンド・シップスキル」

新しい子どもたちが入園してきたり、プレスクールのグループに移行したりする秋は、特にこうしたソーシャルスキルの訓練が効果的です。ゲーム、アニメーション、さまざまなマインドフルネスや会話の練習によって、子どもたちに生涯役に立つスキルや習慣を教えることができるのです。
「このおもちゃを使っていい?」「まだ遊んでる?」
いちばん簡単なのは、こんなふうに友だちに聞くことですよね。

写真提供:Jenna Lehtonen/フィンランド赤十字社

謝ること、助けを求めることを学ぶ

トンペリは通常週に1回30分ほど、ムーミンの訓練を行っています。
彼女は、感情やコミュニケーション・スキルが、子どもの頃も、そして大人になってからもいかに大切かを指摘します。訓練すればするほど、そのスキルは強固なものになります。幼い頃からフレンドシップ・スキルを訓練することで、子どもたちは自分自身にとっても彼らの回りの環境にとっても、建設的な行動をとることを学ぶのです。
トンペリによると、「ムーミンと学ぶフレンドシップ・スキル」が子どもたちのプログラムに組み込まれてから数カ月で、その効果はすでに目に見えてあらわれているそうです。
「自発的に手助けをする場面が増えましたし、より素直に謝れるようになったんです」

ハグすることも簡単にできるようになったようです。トンペリがカニの真似をして、顔を天井に向けて床を歩くゲームを始めます。
ムーミンの音楽が止まると、子どもたちはお互いの首に抱きつきます。誰も一人ぼっちにはなりません。ムーミンのセーターを着たイヤスは、友だちに抱きしめられて、はちきれそうなほどうれしそう。

グループハグに嬉しそうなイヤスとお友だち。写真/Jenna Lehtonen

「次は、ちょっとがんばってみましょうね。仲良しのお友だちじゃなくて、あまりハグしたことないお友だちを探してみましょう」とトンペリさんは言います。
すると、子どもたちは3人や2人でギュッと抱き合って、床の上で笑っています。大人の社会でも応用したいような光景ですよね。

「いいこと」をしたらビーズを入れよう

集中すること、友だちを作ること、自尊心、思いやり、孤独感などは、年齢に関係なく訓練しておくべきスキルです。ふれあいゲームを一緒にすることで、グループのチーム意識を強めることができます。
「友だちの背中に絵を描いたり、目には見えない魔法のクリームを塗ったり、グループで作る“ハグトレイン”に乗ったりしているんですよ」とトンペリさんは言います。

この幼稚園では、フレンドシップ・スキルや「人に親切にすること」を奨励しています。
誰かがいいことをしたと報告するたびに、幼稚園のガラスの瓶にビーズが1つずつ入れられていきます。ガラスの瓶がビーズでいっぱいになると、それはたくさんの「思いやり」が積み重なったという証です。トラ組は、フレンドシップ・パーティーを開く予定です。


Text and photos/ ミュッリュプロのモンテッソーリ幼稚園のルポルタージュより
赤十字会報誌『Avun Maailma』2023年1月号掲載
copyright/ Jenna Lehtonen/Red Cross. 

翻訳/内山さつき