舞台作品になったムーミン・コミックス― コミックスを元にした初の舞台の制作秘話

ムーミン谷とその豊かなキャラクターたちは、これまでも舞台作品として命を吹き込まれてきましたが、トーベ・ヤンソンの「ムーミン・コミックス」が舞台化されるのは初めてのことです。        

「ムーミン谷の危機と災難(Kris och katastrof i Mumindalen)」は、2022年10月初め、ヘルシンキのリッラ・テアーテンで初公演を迎えました。この作品はムーミン・コミックスを原作とした初の演劇で、大絶賛されました。

ムーミン・コミックスは、1940年代末、フィンランドの新聞「ニィ・ティド」に初めて掲載されました。その後ロンドンの新聞「イヴニング・ニューズ」と契約したことにより、40紙以上のイギリス連邦の新聞に配給され、毎日2000万人以上の人に読まれるようになったのです。1954 年から 1975 年にかけて連載され、最初はトーベが描いていましたが、数年後には弟のラルス・ヤンソンに引き継がれました。

「ムーミン谷の危機と災難」は、長い時間をかけて制作されてきた舞台です。この動画では、リハーサルの様子と舞台の関係者のインタビューを見ることができますよ。

演劇としてのムーミンコミック:すべてが白と黒

演出・振付を担当したヤコブ・ホグルンドは、この劇がモノクロなのは、コミックスがモノクロだからだと説明しています。この舞台には、人形劇のあらゆる芸術美学が用いられ、たくさんのキャラクターにはそれぞれ独自の表現がなされています。主に大人を対象にしていますが、10歳以上の子どもも鑑賞することができます。
ホグルンドは、10年以上前に演出を始めたときから、ムーミン・コミックスをベースにした芝居を作りたいと考えていた、と語っています。彼は遊び心と想像力に富んだ演出家で、ムーミン谷とそのファンタジックなキャラクターたちをどのように舞台で実現するか、何年も前から考えてきたのです。

脚本家のアンニーナ・エンケルによると、第一幕はコミカルに描かれる社会風刺、第二幕は自然の中での私たちの小ささと、世界に存在することについて描かれているとのことです。

ファンタジックな人形と俳優たち

「パペットデザイナーにとって、これは一生に一度のチャンスです」と、人形デザイナーのヘイニ・マーラネンはこの作品の制作について述べています。
「他のアーティストの創作物を再現する、あるいは再発見することは、とてもポジティヴな挑戦なんです」
100体以上のパペットが登場するこの作品で、多様なキャラクターをどんなふうにユニークで異なるものにするかということは、巨大なジグソーパズルのようでした。

3メートルの腕を持つ博士

人形遣いのリーナ・ティッカネンは、劇中で20体以上のパペットを操っています。彼女はスニフの役ですが、ムーミンママの左手や、ムーミンパパのお尻を操ることもあります。
「シュリュンケル博士は、とても大変なパペットです。彼はどっしりした衣装を付けていて、ヨアキム・ヴェゲリウスが頭を、レーッタ・モイラネンと私が手を動かしているんですよ」

ミーサやその他のキャラクターを演じているピア・ルンナッコは、ムーミンが大好きだといいます。この作品の稽古で一番楽しかったことは、たくさん遊んで、まるで子どもの頃に戻ったような気分になれたことだと言います。ムーミンを演じた俳優のアレクサンダー・ウェンデリンもこう語っています。
「私は子どもの頃、人形や動物のぬいぐるみでよく遊びました。それとよく似ていて、とても楽しい」

舞台美術と音楽

舞台美術を担当したスヴェン・ハラルドソンは、舞台美術をできる限り削ぎ落とし、非常にシンプルな空間を作り上げたと述べています。ごくわずかな要素で構成されたセットは、人形や役者、小道具を引き立てる空間なのです。

また、この作品のために作曲された音楽や歌がふんだんに使われています。舞台でもムーミンパパを演じている、作曲家で俳優のロバート・コックが音楽を担当し、脚本家のアンニーナ・エンケルが作詞を手がけました。第1幕では、ナンセンスな詩からなる口語の歌が、第2幕では、より伝統的な歌と、コックによればメロディー、ハーモニー、そして不協和音が含まれている音楽が登場するそうです。

トーベ・ヤンソンとムーミントロール、リッラ・テアーテンの歴史

演出家のヤコブ・ホグルンドは、2019年からリラ・テアーテンの芸術監督も務めています。リッラ・テアーテンとムーミンの歴史は、ヴィヴィカ・バンドラーがこの劇場の芸術監督だった頃にまでさかのぼります。つまりこの舞台は、とても由緒正しいものなのです。

1958年にトーベ・ヤンソンが脚本と舞台美術を手がけた「舞台袖のムーミントロール(Troll i kulisserna)」は、北欧の国々にリッラ・テアーテンの名を知らしめた作品でした。
「この前作に出演していた俳優たちの偉大さを考えると、その後に続くのは大変なことです」とホグルンドは笑って、特に当時ムーミンを演じていたラッセ・ポイスティらの名前を挙げ、言及しました。
そして、「ムーミン谷の危機と災難」は10人の俳優が出演する、より規模の大きな舞台であること、また、前作で作曲家のエルナ・タウロが行ったように、舞台上でピアノを使うことを通して、「舞台袖のムーミントロール」へのオマージュを表現していると説明してくれました。

11月には、リッラ・テアーテンでトーベ・ヤンソンのムーミン・コミックスの世界と社会風刺、トーベとリッラ・テアーテンの歴史に深堀りする、「Sides of Tove」というイベントも開催されました。

公演日程などを含むリッラ・テアーテンの公式サイトはこちら
また、この舞台作品については、森下圭子さんの「フィンランドムーミン便り」でも詳しく紹介されていますよ。
記事はこちら⇒「芸術の秋、舞台の秋」 「大人が観る人形劇」

翻訳/内山さつき