(47)ムーミンに出てきそうな人々

いまフィンランドでは精神病院から社会を変えたとまで言われる伝説の患者さんをモデルにした映画がヒットしている。精神病院博物館ではガイドのおじさんが彼女にまつわるエピソードを嬉しそうにいつまでも話してくれるし、庭には彼女の記念碑まである。誰よりも幸せそうで、そして周囲の誰もかもが彼女によって明るくなれたんだろうと想像できる。そしてこうしたテーマを扱った映画に大勢の人々が足を運ぶフィンランドってやっぱりいいなあ、と思う。

私がこの映画を観たのは精神医療に関わる仕事の人たちが集まった特別上映会で、監督が登場し、質疑応答の機会もあった。「昔は個性の強い患者さんが多かったですが、今は薬の開発など治療がぐんと変わって、かつてのような個性的な人たちはいません。周囲を幸せにしたり、周りの人たちの考え方を変えたという点で彼女は英雄だと思うのですが、彼女のような英雄はもう今の世の中には登場しないのでしょうか。」と質問した精神科医がいた。監督の答えは即答に近く、そして迷いがなかった。「今の世の中、他の人との違いをポジティブにできる人はみんな英雄だと思います。」というのが彼の答え。他との違いを軋轢にせずそれを自分の強みにできたら、自分だけでなく周囲までも幸せにしてしまう……監督の話を聞きながらムーミンのことを考えていた。ムーミンに登場する誰もかもが、みんなどことなくそんな感じじゃないかと思う。

日常に目をやると、やっぱりいたいた。川の中の大きな石のように人の流れをとめながら、人の往来が激しいところに立ち止まり、小さな袋に手を突っ込んでひたすらお菓子を食べている大人。空港では飛行機を待つゲートで、いよいよ飛行機に乗り込む列が動き始めたときに、周囲が忙しそうにしているそのタイミングで何故と思うけれども、マイペースにもぐもぐバナナを食べ始める大人だっている。こういう大人たちって、子供がすくすくと育ってきたみたいで思わずクスっと笑ってしまうおかしみを漂わせている。街のあちこちで「いい大人」がときおり見せる、周囲に足並みを揃えられず個性をにじみ出す楽しい光景って結構あるもんだなとも思う。本人たちは真剣だろうけど、でも周囲が和んでくるこの感じってムーミンの世界みたいだ。

森下圭子

 

発売とほぼ同時に売り切れになってしまったフィスカルス社のムーミンハサミ。やっとお店に出回るようになった。ミィ柄の子供用ハサミは左利き用。

自由きままにお絵かきしていいところには決まってムーミンの絵がある。誰がどれくらいのレベルで描いても、「ムーミンだ」と認識できるところにムーミンのキャラクターとしての凄みがあると思う。