(175)息抜きと楽しいこと

コロナ禍の息抜きに編み物をする方が、「時々は楽しいことがしたいから」と編んでくれたのがこのセーター。

ある日アパートのドアを開けると、両手で抱えるほどの大きな包みが置いてあった。クリスマスの包装紙だ。差出人の名もない包みは大きくて柔らかかった。包みには『もみの木』というムーミン一家のはじめてのクリスマスのお話の一節が添えられていた。

包みをあけると、ムーミントロールが編みこまれたピンク色のセーターがでてきた。セーターを見た瞬間に誰の手編みかすぐにわかった。遠い町に暮らす、編み物の上手な女性だ。そういえば、その町に長期滞在していた近所の友人が帰ってきたばかりだ。そういうことか。

彼女は救急センターに勤める女性。コロナ禍で緊張感は高まるばかりの日々の暮らしの中で、犬との散歩の時間、年老いた母の家庭菜園の手伝い、そして編み物を息抜きにしていた。話題の柄や本に刺激を受けることもあれば、「でも時々は楽しいことがしたいから」とオリジナル柄を自分で編む。

古く美しいものを好む女性にはレース編みの柄を、おばあちゃん子の女性にはおばあちゃんが生まれ育った村に伝わる柄を、そして私にはムーミンの中でも私が特に好きなムーミントロールを編んでくれた。トーベのデザインした花や北欧を思わせるモチーフをムーミントロールと一緒に編み込んでくれた。いつも無口な彼女の夫が、ムーミンのセーターを見ると「これはいい!」と口走ったそうだ。

トーベ・ヤンソンはムーミングッズが使う人たちのひと手間やひと工夫のあるものであってくれたらと願っていたという。ムーミンと編み物でいえば、ムーミンのあみぐるみの本とムーミン柄を編むための別冊や本がある。私の知り合いの中には「これまで編み物なんか自分の人生で考えたことがなかったけれど、本を見てやってみたくなったの」と、いきなりスニフ柄の毛糸の靴下を編んでしまった人もいる。まだ一年もたっていないというのに、いまは数々の柄の毛糸の靴下を編み、編み物が趣味になっている。

ムーミンのセーターはどう編むかだけでなく、届けられ方までが物語の一部のようだなと思った。さっそくセーターを着て、凍った海の上に立ってみた。ムーミンのセーターと一緒に雪景色を眺めながら、楽しいと編んでくれていた人の楽しさをひしひしと感じていた。

フィンランドの食卓に欠かせないじゃがいも。ついにムーミンパッケージが登場。マッシュポテトならムーミンママがおすすめ。

森下圭子