ムーミンママの庭

目がまわるような蒸し暑さから逃げて建物に入ると、本当にほっとする厳しいお天気が続いた夏でしたね。新金庫番です。さすがのお日様好きのフィンランド人たちも、ヘルシンキで30度を超える日が続いた今年は、森でのベリー摘みでさえ、苦行になったようです。

例年のヘルシンキは、一番暖かくなる7月でも、日中の最高気温は摂氏20度ちょい、結構多い雨の日など、すぐに気温が日本の冬なみの10度台に下がります。そして、8月に入れば夏も終わり、きのこ摘みを楽しみながらも、どんよりした天気の中、どんどん日の射す時間が短くなって冬が近づくのを、まるでモランが近づいてきているかのように、不安な顔で語り合います。

でもそんな、彼らにとっては最高に寂しい夏の終わりでも、美しい黄葉や紅葉を楽しむことはできますし、デイジーやバラなどの庭の花々も心を癒してくれます。屋外のマーケットでは、食べ物同様に、カラフルな切花の屋台が出ていて、編み物などの手作業とともに、生け花などの植物の色彩が、大事な生活の潤いになっていることがわかります。

『ムーミンパパ海へいく』(小野寺百合子訳 講談社刊)の中で、ムーミンパパに海の孤島に連れ出された家族は、慣れない環境と、ムーミンパパのやり場のない怒りの連続噴火に、だんだんと精神の不安定を来たしますが、そんな中でムーミンママのとった、いつにない特殊な行動があります。

まずムーミンママは、島に流れ着いた流木や丸太をひろって薪を集めました。自分で場所を決めて、のこぎり台を作ると、一本一本正確に長さを揃え、自分の周りに半円形にきちんと積み上げたのです。ムーミンママには、木についてよく知っており、樫、のうぜんかずら、バルサ、オレゴン松、マホガニーなども見分けることができました。その作業は、「島全体を庭のようにきれいにそうじし、美しくすることができるんだ、という自信を」ママに起こさせました。

また、ある雨の寒い日にはムーミンママは、こんな日だから、ピクニックに行きましょう、と突然に家族を誘い出しました。驚き、反対の気配を見せる家族に、ママはなんといったのでしょうか。「なんだか、危険が近づいてくる予感がするのよ。」「いますぐピクニックに出かけないと、何が起こるかわかったものじゃないわ。」どんな魔性な脅し文句!!船でたどり着いた岩礁の上で、ムーミンパパたちは震えながらコーヒーを沸かし、バター入れやみんなの茶碗を、あかるい花のように岩の上にひろげたバスタオルのうえに並べ、日よけの傘のしたで、サンドイッチを食べ、とりとめもなく、おしゃべりをしました。

確かに何年も変わらないママのやり方でしたが、そのピクニックのあとも、ママはなんだか、寂しさを抑えることができませんでした。

そして次にムーミンママがやってみたのは、染め粉とペンキで壁に花の絵を描くことでした。

ばら、マリーゴルド、三色すみれ、しゃくやくを大きく、大きく描きました。黄色いペンキがないため、太陽はかけなかったのですが、その絵は、描き進むごとに、ムーミン谷に似てくるのでした。そしてママは、りんごの木を描いたあと、その木を抱きかかえると、ついに、その絵の中に入ってしまいます。ムーミンパパは、バラとしゃくやくの区別もつかず、少しママをいらっとさせましたが、そんなパパもムーミントロールも、ママがどこにいるのか気づきません。そして、美しい夕日の時間に描き上げたその絵の中で、ムーミンママはバラやりんごの木に囲まれて、すっかり安心してぐっすりと眠ってしまっていました。

やっぱりムーミンママには、ムーミンママの庭が欠かせませんよね。