誰にでも開かれているムーミンやしき――ムーミンの物語に描かれた「寛容」の精神


トーベ・ヤンソンが描いたムーミンの物語では、誰でもどんな人でも、家族の一員になることができます。ムーミンやしきでは、すべての人があたたかく迎え入れられるのです。ムーミンの小説が書かれたのは何十年も前のことですが、この寛容のメッセージは、今も変わらず必要とされる、現代的なものと言えるでしょう。

1914年から2001年までのフィンランドを生きたトーベ・ヤンソンは、世界では3番目、ヨーロッパでは最初に女性に選挙権が与えられた世代を代表しています。トーベの物語は、まさしく皆が耳を傾け、よく知るべきものなのです。

トーベ自身の人生も、彼女が生み出したムーミンの物語と同じように、時代を超えた価値観や寛容さ、そして何よりも愛に基づいたものでした。命の多様性を尊重し、受け入れ、認めることは、彼女にとって当然のことであり、トーベはムーミンの物語の中で、そのことを描きたかったのです。

トーベは、芸術一家の家庭に生まれました。彼女は早い頃から世間一般の方法ではなく、自分自身の方法で、社会的に不利な立場にあることも明らかにしていました。例えば、フィンランドでは同性愛が1971年まで違法でしたが、トーベは1955年から人生の最後まで、生涯のパートナーであるトゥーリッキ・ピエティラ(愛称トゥーティ)と暮らしたのでした。

ムーミンの物語には、子どもだけでなく大人にとっても大切なメッセージがあります

楽しさいっぱいのキャラクターであるトフスランとビフスランに、実は同性愛という隠された意味が込められていたこと、または、1957年に出版された『ムーミン谷の冬』に登場するトゥーティッキが、そのときのパートナー、トゥーリッキ・ピエティラからインスピレーションを得たキャラクターだということに気づく子どもはほぼいませんし、大人でもほとんどいないでしょう。

トゥーリッキの前にも、トーベはヴィヴィカ・バンドラーと交際していました。1948年に出版された『たのしいムーミン一家』の登場人物であるトフスランとビフスランは、ヴィヴィカとトーベ自身からインスピレーションを得ています。いくつかの解釈によると、トフスランとビフスランが話している暗号のような言葉は、当時違法だった同性間の愛を育んでいた彼女たちの、共通の秘密が描かれているのではないかとされています。

物語に隠された深い意味は、子どもより大人の方がよりクリアに解き明かすことができるかもしれません。それでも大人であっても、何度も読み返し、明確にすることが必要とされるでしょう。そうすることによって次に読むとき、また新しい深い理解でムーミンの物語を読むことができるのです。

ムーミン物語のメッセージは、私たちの毎日の生活を導いてくれるはず

ムーミン一家の母親であるムーミンママは、ムーミンやしきが家族にとっても訪れた人にとっても、安全で愛に満ちた場所であるようにといつも気を配っていました。私たちの住む世界でも、ムーミン谷と同じように、外見、立場、価値観、性別、宗教、性的指向などにかかわらず、一人ひとりが平和に暮らす権利を持っているはずです。私たちは皆、自分の意見を他人に押し付けることなく、ありのままでいる権利を持っているのです。

 

※最初のイラストは、ムーミン・コミックス14巻所収 「一人ぼっちのムーミン(Moomin and the Brigands 1954-1955) 」より Tove Jansson © Moomin Characters ™.

翻訳/内山さつき