(156)島々の暮らし

ムーミンやしきのモデルになったといわれるグロースホルムの灯台。今は土台だけが森の中に隠れるように残っている。

7月になり私はペッリンゲにやって来た。トーベ・ヤンソンが夏になると必ず戻って来たところだ。大小の島々からなる地域で、通年で暮らしているのは270人ほど。夏になると人口は一気に膨らみ、3000人ほどの人が暮らす。小さな島に小屋一つ、そんなところにいる人もいれば、大きな島に並ぶ家に暮らす人もいる。

一週間ごとに住まいを変える私は、今週は森の中にいた。人を見かけることはなく、その代わりに鹿やヘラジカに遭遇するような森の深いところにいる。なのに、深夜の静寂が訪れると、森の向こうの海の音が聞こえてくるのだ。森とはいえ海に囲まれた島なのだ。この前の週にはペッリンゲでただ一つの商店のそばで暮らした。民家も並んでおり、白夜で夏休みということもあり、夜中近くまで楽しそうにはしゃぐ子どもたちの声がした。

フィンランド各地からジリジリといなくなっていった漁師も、ペッリンゲには何軒かの漁師が今も現役で頑張っている。漁師たちは自分たちで魚を加工して自分たちならではの商品を作って生き残りに成功した。島の人は時々イベントを開催したりしながらお金を集め、みんなで子どもたちの学童を確保する。「一つだけで生計を立てようとすると、それがうまくいかなかった時ににっちもさっちもいかなくなるでしょ」と言って、一人の人が複数業種の仕事に身を置く。柔軟に生きながら、自分ならではの生き方をしているので、個性が際立っていく。

ある島の人と話をしてて、誰さんはムーミンの中に出てくる誰に似ているかという話で盛り上がる。トーベがいない今もなお、この島に来ると、ムーミンの誰かを重ね合せるくらいに個性的な人たちがいる。フィンランドの地方からやって来た人が「フィンランドじゃないみたい」というくらいに、みんなで力を合わせたり何かを共有することが当たり前で、なのに、人は一人になることが必要なことをよく知っている。

この夏、ペッリンゲで生活して、一人にしておいてくれるだけでなく、一人で放り出される経験もしている。目をつむってでも歯を食いしばってでも一人でやるべきことをやり、後に引き返せないような気持ちで何かをやり遂げるという経験を51歳になって再び取り戻している気がする。少し無茶をしたり、少し時間をかけてでも一つ一つクリアしたり。

あなたはこの島の人たちの自信につながるようなことを何年もかけてやってきてくれたと言ってくれたりするけれど、この夏、ペッリンゲへやってきて、私は前よりも出来ることがうんと増えて、私の方こそ「大丈夫」と自信につながることをたくさん経験させてもらっている。

大小の島々が連なる群島。こんな岩礁もそこここにあり、船もボートも海をいくのは至難の技なのだそう。

森下圭子