(145)ヤンソン姉弟

夏のあいだだけ開園のムーミンワールドはいよいよ日曜まで。これはボートで海に出たときに海から眺めたムーミンワールドの様子。近づくと、子どもたちの楽しそうな声が風にのって聞こえてくる。

 8月になると、フィンランドには寂しい気配が漂いだす。光の加減、風の匂い、気がつけば白夜は終わり夜空に闇が戻り、学校は新学期を迎え、長い夏休みが終わり、街に日常が戻る。
 美術館や博物館が力をいれる夏の特別展。この夏は小規模ではあったものの、トーベ・ヤンソンのすぐ下の弟で写真家のペールウロフ・ヤンソンの展示が行われていた。本来は99歳の記念展として予定されていた展示は、残念ながら回顧展になってしまった。展示点数は少ないものの、第二次世界大戦中にいた戦地で撮影した写真なども、初めて紹介される作品もあった。トーベ・ヤンソンの『彫刻家の娘』の表紙に使われた作品、ヤンソン三姉弟の写真も展示された。

 ヤンソン姉弟は6歳ずつの歳の差がありながらも、仲の良い姉弟だった。夏の島暮らしでも、一緒に遊びを発明する子ども時代、それぞれが独立してからも、お互いの島を行き来した。
 仕事の面でも協力し合った。とくに一番上のトーベと一番下のラルスはムーミンに関する仕事で支え合った。たとえばコミックス。コミックスに時間を取られ過ぎていたトーベは、これを引き継いでくれる最適の人物としてラルスを選んだ。
 また現在ムーミンのグッズや権利を管理しているムーミン・キャラクターズという会社を創ったのもトーベとラルス。以降、ビジネスの交渉事はあまり得意でなかったトーベの代わりに商談を続けたのはラルスだった。

 三姉弟のまん中ペールウロフとトーベが一緒にムーミンを手がけたこともある。ムーミンの唯一の写真絵本がそれだ。『ムーミンやしきはひみつのにおい』はムーミン関連の本でトーベが手がけた最後の一冊。トーベがパートナーのトゥーリッキ・ピエティラと一緒に作ったムーミン屋敷の立体作品を撮影して作られた絵本。細部のニュアンスの表現のためにライトではなくロウソクの灯りを使ったりと、人知れずの工夫が凝らされている。
 トーベの日々の様子が写真でたくさん残されているのも、ペールウロフによる写真のおかげだ。アトリエでの様子、裸で泳ぐ島での暮らし。

 ムーミンの世界が広がっていったのも、私たちがムーミンの作者について知りたいと思ったときに、さまざまな表情を見ることができるのも、弟たちの存在あってこそ、お互いを支え合った三姉弟あってこそなのだなと思う。今年になって、トーベに近かった人たちが次々と故人となり、夏が終わるこの時期になって、改めてそのことが身に染みてくる。

森下圭子

フィンランド国立写真美術館でのペールウロフ・ヤンソン展は9月1日まで。点数は少ないものの、これまで紹介されることがなかった貴重な作品が展示されている。