(54)ムーミンのそばにいた子供たち

個人的なことなのだけど、私が関わるふたりのフィンランド人作家が、東京でゴールデンウィークに展覧会をしていた。ひとりはユリア・ヴォリ。もうひとりは日本でビューしたばかりの作家アンネ・ヴァスコだ。ふたりは40代はじめの同世代で、絵本の世界で実績のある期待の作家でもある。

このふたりが揃って口にする「影響を受けた作家」がトーベ・ヤンソンだ。自分が小さな頃に影響を受けていた作品と聞かれれば、真っ先に「ムーミン」と答える。フィンランド人なんだから当然と思われるかもしれないけれど、そんなことはない。フィンランドに来たばかりの頃、自分の周囲にムーミンのアニメを見ている人は多かったけれど原作を読んでいると答える人が少なくて愕然としたものだ。

ムーミンのブームには何度か波があって、残念ながら作家や私を含むこの世代はムーミンを読んでいる人たちがとても少ない。子供が生まれて読み聞かせで初めてムーミンを読んだという人たちもいる。そんな中でのふたりの作家の答えなのだ。彼女たちにとってムーミンは日常だった。子供の頃はそこに普通に暮らしていると思っていたとユリアが言えば、アンネはアンネでムーミンがリアルに感じられたという。いまだに子供の頃読んでいたムーミンに漂っていた、湿度や匂いなどを思い出すのだそうだ。

フィンランドではトーベ・ヤンソンについて、身近にいた人たちから話を聞くような特集は幾度かある。ムーミンの特集をしても、やはりなんとなく作家寄りのアプローチになり、身近な人やムーミンまわりで一緒に仕事をした人たちがエピソードを語ることが多い。いつかトーベ・ヤンソンに影響を受けた、またはムーミンの原作の中で自分たちの幼少時代があったというアーティストたちの言葉が集められたら面白そうだなと思う。

もうすぐ子供たちの夏休み。自分の時間がたっぷりある夏小屋の暮らし。森の中で今年もまた多くの子供たちが自分だけのムーミン体験をするのだろう。

森下圭子

缶といえば四角いのが多かったフィンランドで、少しずつ丸い缶が増えている。ムーミンでも丸缶が登場。

ムーミンが浮き出てくるタイプやLEDライトで照らせるしくみになっているものも。こんなキーリング、ムーミンに限らずフィンランドでは新しいタイプ。