(139)懐かしくて新しいムーミンの世界

子どもも大人もムーミンたちとの触れ合いを楽しみにしているムーミンワールド。今年も2月の1週間、冬眠から醒めたムーミンたちが遊びにやってくる人々を歓迎してくれた。

ムーミンを読むたび新しい発見があるように、ムーミンの周辺には、触れるたび訪れるたびに新しさを覚えることがよくある。作者トーベ・ヤンソンが夏を過ごした島もそう、アラビアのムーミンマグも飽きがこないと評判だし、ムーミンワールドも行くたびにムーミンたちとのふれあいが新鮮で楽しい。

ムーミンを学術的に論じているものを読んでみても、作者のトーベ・ヤンソンが『ムーミン谷の十一月』をムーミンの最終巻としムーミン谷を自らが去るとき、ムーミン谷を読者に委ねたと指摘する者は多い。私もそう考えるひとりだ。その日の、その時のあなたの中に浮かんできた、そのムーミンでいいのです、と言われているような気分。だから私の記憶では、ムーミンたちはいつものびのびとしている。ときどき原作にない世界まで浮かんできたりするけれど、一読者一ファンとしては、それでいいのだろうなと思う。

フィンランドの人たちは、子どもの頃からムーミンに触れてきた人が今は多い。特に90年代のアニメで育った人たちは、自分たちのDNAにムーミンが組み込まれているといっていいほどだ。怖いという感情と言葉を繋いでくれたムーミン、好奇心を教えてくれたムーミン。ムーミントロールが作品ごとに成長していったように、自分の年齢に応じて、自分の中のムーミンも様々な形で存在を変えてきただろう。ムーミンは、振り返れば懐かしく、同時に何か新しいことをするときに励ましてくれたり、新しい視点に気づくきっかけになってくれたりもする。

ムーミンワールドでは2月になると冬眠中のムーミンたちが一週間だけ冬眠から目を覚まし、みんなと遊んでくれる。この冬に見たこと、最近あったことなど、子どもたちはムーミンたちに一生懸命説明している。一方で、ちょっと勇気がでない子たちの背中を押すように、一緒にソリ滑りをしてくてるムーミンたち。

この冬、ムーミン美術館で結婚式を挙げたカップル第一号が誕生した。自分たちにとって大切な存在に囲まれて、新たな門出を。子供の頃から慣れ親しんだ懐かしい存在でいながら、大人になった今も、ムーミンの世界は自分たちの背中を押してくれ励ましてくれる存在でもあるのだ。

森下圭子

ムーミン美術館で結婚式を挙げたカップル第一号。ムーミンと共に育ち、ムーミンと共に新しい一歩を踏み出す。