(129)少女ソフィアの夏と小劇場

フィンランドの小さな町の巨大ショッピングモールにはムーミン公園が併設されている。

 リッラ・テアターはヘルシンキにあるスウェーデン語系の小劇場。現在はヘルシンキ市立劇場の運営(2005年8月〜)になっているけれど、かつては独立した小劇場だった。トーベ・ヤンソンが積極的に関わったムーミン劇の多くはここの作品だ。

そのリッラ・テアターで『少女ソフィアの夏』を元にした芝居が上演された。ソフィアとはトーベ・ヤンソンの姪ソフィア・ヤンソンのこと。作品はソフィアに捧げられ、作品の原題は『夏の本』という。ヤンソン一家が夏を過ごす群島を舞台に、小さなソフィアと祖母の夏の日々が描かれている。挿絵はトーベが一番下の弟でソフィアの父でもあるラルスと一緒に建てた「バラの風」という名の夏小屋を彷彿とさせる。

春分の日を過ぎると日照時間は勢いをつけて長くなるようで、海や森は長い冬の眠りからさめようとざわざわしてきた頃、舞台『夏の本』は初日を迎えた。

想像力が豊かで一人ぼっちで、おばあちゃんへは感情を素直にあらわにし、やせ我慢してでも自分の言葉に従おうとするソフィア。ユーモアと知恵を兼ね備え、少しけだるい雰囲気を持ちながら少女のように無邪気に笑ったり踊ったりするおばあちゃん。毒のある言葉が時にソフィアに迫り、時にソフィアを慰める。

スウェーデン語系の人たちのお芝居は、言語的な背景があるのか(公用語でありながら、ヘルシンキの街をスウェーデン語だけで生活するのはほぼ不可能)、表情や身体表現と言った言葉以外での伝達がフィンランド語の舞台のそれに比べて分かりやすい。大小さまざまな木箱だけで舞台のセットを組み、時々役者たちが箱を動かしてステージ上の場所や場面が変わっていく。音は舞台後方にいる人が時に役者となり時に風景となりながら担当し、役者たち本人が効果音を作ったりもする。

夏が始まり夏が終わっていく時の、あのなんとも言えない気持ちのように、人生の初期にいる人と終盤を迎えた人の思いの交差が観客の心に響く。人生について生きることについて自分の頭にさまざまな思いが浮かんでは消え、目の前には美しいセットによる美しい舞台が動き続ける。

この舞台、珍しくフィンランド語を母語をする人たちの間でも話題になっている。SNSで勧める人も多く、デザイナーやミュージシャンたちと言った文化人やアーティストが絶賛するなど小劇場としては異例の注目を浴びている。

森下圭子

さらに巨大ショッピングモール内には、アラビアのムーミンマグ全部まとめて売ります!のオークションで競り落とされたマグとボウルが展示されている。