映画評『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』は人生に深く結びつく傑作だーーその神秘的な作風を読む

映画レビューサイト「リアルサウンド 映画部」に掲載された、映画評論家 小野寺系さんの『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』評を一部ご紹介させていただきます。

『ムーミン』シリーズの何が良いのかという点は、書き尽くせないほどあるが、私が最も魅了されるのは、そこに原作者による深い人間の理解と、生きる上での精神が見事に反映されているというところだ。



 ピーター・ラビットやスヌーピーのように、世界中で愛されるムーミン。日本でも数度TVアニメが制作されており、キャラクターとしての知名度も人気も抜群に高い。また、2019年の放送を目指し、イギリスでTVアニメシリーズが計画されているなど、定期的に新作の話題も聞かれる。本作『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』は、そんなムーミンたちが活躍する、1978年にポーランドで制作されたストップモーション・アニメーションによるTVアニメシリーズを再編集した劇場作品だ。この再編集劇場版は、『ムーミン谷の夏まつり』、『ムーミン谷の彗星』に続き、本作で3作目となる。

 キャラクターはフェルトなどで手作りされたパペットで表現されるように、現代の劇場版作品としては、あまりに素朴だといえるだろう。しかし、原作者トーベ・ ヤンソンが監修し愛したとされる、このTVシリーズの映像は、いま見ても力があるどころか、現在の多くのアニメーション作品を圧倒する美しさと可愛らしさにあふれている。

 なかでも本作は、原作のなかでも異端的で芸術的な、小説6作目『ムーミン谷の冬』、そして『ムーミン谷の仲間たち』のエピソードを基にしており、前2作品のようにドタバタとした楽しさでなく、映画作品にふさわしい、詩情豊かで味わい深い、さらなる傑作となっていた。この充実感は、可愛さや素朴さという魅力というところをはるかに超えた、観客一人ひとりの人生に深く結びつくものだと感じている。ここでは、そんな本作の素晴らしさをじっくりと語っていきたい。